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バーをこよなく愛すバーファンのための WEB マガジン

2019.06.6 Thu

「ウイスキーガロア 2019年6月号」からグレンフィディックのグローバルブランドアンバサダー ストゥルーアン・グラント・ラルフ氏に聞く

◎文=ウイスキーガロア編集部 ◎写真=櫻井将士

1963年、世界で初めてシングルモルトとして売りに出されたグレンフィディック。ブレンデッド全盛の時代に無謀とも思われた挑戦は、2人の兄弟によって実を結び、それから半世紀経った今もグレンフィディックは世界ナンバーワンシングルモルトに君臨している。なぜそれが可能だったのか、その秘密に編集長が迫った。


――珍しいお名前ですが、何と発音するのが正しいのですか?
ラルフ ストゥルーアンです。ウイスキーを2杯くらい飲むと発音しやすくなりますよ(笑)。古いゲール語で「流れる水」を意味する言葉なんです。

――ウイスキーにぴったりのお名前ですね(笑)。ご出身はスペイサイドのどちらですか?
ラルフ 生まれも育ちもフォレスです。大学はグラスゴー大学で化学を専攻しました。卒業後はインバーハウス社に入り、アンノックやバルブレア、オールドプルトニーなどで働きました。

――そのあと一度オーストラリアに行かれていますよね。
ラルフ 2008年頃にスコットランド経済が落ち込み、ウイスキー業界も打撃を受けたので、その時に一度オーストラリアに移りました。いつか自分のウイスキーバーを開きたいと思っていたので、メルボルンにいた友人と一緒にバーを始めたんです。

――そこからどうやってグレンフィディックに移ったのですか?
ラルフ メルボルンにいた頃、グレンフィディックの元蒸留所マネージャー、イアン・ミラー氏から電話をもらって、グレンフィディックのアジア太平洋地域のアンバサダーにならないかと。その後アジアの拠点を転々とし、2016年にグローバルブランドアンバサダーに就任しました。

――現在は全世界のマーケティングをおひとりで担当されているのですか?
ラルフ 実際は大きなチームで動いています。また、グレンフィディックは世界の主要地域に31人のローカルブランドアンバサダーがいます。それはともかく、今は何事もコンピューター化が進んでいますが、卓越したウイスキーを造るにはやはり人の手が不可欠だというのが我々の理念です。グレンフィディック、バルヴェニー、キニンヴィを合わせると、ダフタウンだけでも250人以上の人が働いています。



〝シングルモルト〞というカテゴリーを確立

――それではここからはグレンフィディックの歴史を改めてお聞きしたいと思います。なんといっても、グレンフィディックは1963年に初めてシングルモルトを世に送り出しました。そのあたりの経緯を教えてください。
ラルフ グレンフィディックは1886年にウィリアム・グラントが創業し、代々家族経営を続けてきましたが、3世代目の時に大きく成長しました。当時はアメリカの禁酒法時代で、どこも生産を落としていたのですが、我々は逆に生産量を上げる決断をし、禁酒法解禁後に一気にシェアを拡大したのです。その後、1950年代から60 年代にかけて、創業者の曾孫にあたる4代目のサンディ・グラント・ゴードンとチャールズ・グラント・ゴードンの兄弟が会社を引き継ぎます。まだまだブレンデッド全盛の時代でしたが、自分たちにしかできない、ユニークで新しいものを市場に投入したいという思いで、初のシングルモルトの発売に踏み切りました。
彼らはブレンデッドスコッチの最大市場だったニューヨークを最初のターゲットにし、独自のセールスを展開しました。1つがニューヨーク・シカゴ間とニューヨーク・ロサンゼルス間を結ぶ列車の中で、グレンフィディックを提供したことです。当時はウイスキーのソーダ割りを車内で飲む人が多かったので、彼らに向けてアピールしました。もう1つは、ハリウッドで活躍する役者たちにグレンフィディックを提供し、映画の小道具に使ってもらったことです。当時の映画にはたまに三角形のボトルが写っていたそうです。

――当時は「ストレートモルト」という表記ですよね。「ピュアモルト」や「シングルモルト」という言葉はまだ使われていませんが、アメリカには「ストレートバーボン」という言い方があったので、そのほうが分かりやすかったということでしょうか。
ラルフ そのとおりです。初期の頃はノンエイジで、70年代には8年物のピュアモルトとなり、80年代には再びノンエイジ、そして90年代に今の12 年物になって、シングルモルトという表記に変わりました。

――三角形のボトルは発売当時から変わらないですよね。
ラルフ 今もグレンフィディックのアイコンとなっています。実は、三角形のボトルはベッドの下に隠しておいても転がらないので、奥さんにバレることがないと好評をいただいています(笑)。

――それは知りませんでした(笑)。造りに関しては、今は第1と第2のスチルハウスで合わせて31基のスチルが入っていると聞きましたが、1年前に蒸留所を訪れた際に、第3蒸留棟の建設も始まっていました。
ラルフ 今も工事中ですが、完成すればスチルは全部で48基になる予定です。

――グレンフィディックが使う麦芽はノンピートのみですか?
ラルフ 2002年から1年に1週間だけピート麦芽を仕込んでいます。フェノール値は22ppmで、インバネスのベアード社から麦芽を仕入れています。

――結構ヘビーですね。
ラルフ ただ、製造過程の中でピートの度合いは落ちていきます。創業当時のスタイルを再現するためにピートを使い始めたのですが、製品化しているのはいずれも限定品で、メインはクラシックなノンピート仕込みを貫いています。



マリーイングタンが生むバランスとハーモニー

――それでは12年、15年、18年、21年、IPAカスクフィニッシュをテイスティングしていきましょう。
ラルフ 12年はフレッシュな甘い香りが特徴です。これは仕込水であるロビーデューの泉が効いていて、発酵は長めの72時間です。

――グレンフィディックは今でもすべてダグラスファー製の発酵槽を使っていますよね。
ラルフ ええ。実は以前、6基だけステンレス製に替えたことがあったのですが、すぐに木製に戻しました。木製を使う重要性を改めて認識しましたね。

――12年は久しぶりに飲みますが、美味しいですね。
ラルフ 樽構成は、80%がアメリカンホワイトオークのセカンドとサードフィルのバーボン樽、20%がオロロソシェリー樽です。12年は柔らかなオークの甘みを感じつつ、青リンゴや洋ナシのフレーバーもあって、非常にバランス良く仕上がっています。60年代からほとんど風味を変えていません。

――グレンフィディックはボトリングの前にマリーイングタン(木製の桶)で後熟させていますよね。
ラルフ すべての原酒は容量2000リットルのマリーイングタンに移し、最後に6ヵ月間マリッジをします。蒸留所には800基以上のタンがありますが、面白い話があって、1950年代にデニス・マクべインという銅職人がいたのですが、彼は当時タンの修理を任されていました。ある日ボスのスパナをタンの中に落としてしまい、それを目撃したボスは、パンツ1枚でウイスキーが入ったタンに潜って、スパナを回収したそうです(笑)。

――すごい話ですね(笑)。そのタンは今でも使っているのですか?
ラルフ ええ、有名なタンです(笑)。もちろん今なら安全基準などの問題でありえないエピソードですが。

――グレンフィディックはどれも特別なハーモニーを醸し出していると思いますが、やはり最後のマリーイングが肝なんですね。
ラルフ 手間と時間はかかりますが、この手法によって非常に優れたバランスと調和が生まれると思っています。

――タンの材質はポルトガルのオークだと聞きましたが。
ラルフ サンディがそのために山ごと買いました(笑)。どの世代もさまざまな挑戦をしていますが、常に30年、40年という長いスパンで物事を考えています。

――山ごと買ったというのもスゴイですが(笑)、それも家族経営ならではの強みですね。
ラルフ 15年のソレラリザーブは1998年に誕生した製品で、5代目のデイビッド・グラントがモルトマスターのブライアン・キンズマン、デイビッド・スチュアートとともにこのソレラシステムを応用した製法を導入しました。12年より熟成感があり、複雑でふくよかなコクのある製品になっています。

――ソレラバットに入れた原酒は半分だけボトリングし、空いたところに新しい原酒を注ぎ足していくということですよね。
ラルフ はい。構成はバーボン樽50%とシェリー樽40%に、新樽でフィニッシュしたバーボン樽原酒を10%使っています。それらをソレラバットで後熟させ、さらにそのあとにマリーイングタンでマリッジさせます。土台となるのはバーボンなので、ハチミツやバニラ、クローブやオレンジなどが感じられ、そこに新樽のフレッシュな青みや、シェリー樽由来のリッチなフルーツ香やタンニンが加わります。ソレラシステムを使うことで、これらが非常にうまく融合しています。

――新樽フィニッシュがスパイシーな部分にかなり効いていますね。
ラルフ 次の18年は造りや樽の構成は12年と一緒ですが、こちらはスモールバッチで、ラベルにバッチナンバーも入っています。

――たしかにアロマは12年と近いですが、飲むと違いが顕著に表れますね。
ラルフ より熟成感が感じられると思います。12年はもぎたてのフレッシュなフルーツで、18年は同じフルーツでも、ケーキに入れて焼き上げた果物というイメージです。次の21年は、かつてキューバ産ラムカスクフィニッシュの「ハバナリザーブ」として出していたもので、残念ながらアメリカでそのラムが禁止されたため、仕様を変えました。今はカリブから直接ラムを仕入れ、それを自分たちでブレンドしてカスクに詰め、その樽で後熟させています。

――自社で樽の風味付けを行っているということですね。
ラルフ 21年熟成の原酒を4ヵ月間ラムカスクで後熟させることで、甘みが何層にも重なり、アメリカンオークのキャラクターもよく出ていると思います。

――これは面白い。目が覚めるようなウイスキーです(笑)。
ラルフ ラテンのリズムで踊りたくなるようなアイテムです(笑)。



日本では1400本限定IPAカスクフィニッシュ

――最後のIPAカスクフィニッシュはどんなウイスキーですか。
ラルフ まずはIPAビールを造り、そのビールをグレンフィディックの樽で1ヵ月寝かせます。その後、ビールを空けた樽に再びグレンフィディックを詰めて後熟させます。IPAカスクで熟成させた、世界初のシングルモルトです。

――ビールから自分たちで造ったのですか?
ラルフ フォレスにあるスペイサイドクラフトブルワリーと協同して造りました。IPAフィニッシュをさせることで、ホップの風味やレモンの皮のような青みが引き出されていると思います。

――たしかにホップが感じられますね。
ラルフ 非常に生き生きとしていて、アペリティフにぴったりなウイスキーです。ロックやハイボールがおすすめですが、パーティーなどではビールをチェイサーに飲むのも合うと思います。ハイボールの場合、レモンのツイストを入れるとなお美味しいです。

――日本では限定発売ですよね。
ラルフ 1400本限定です。

――こうやって12年から順番に飲んでみると、改めてそれぞれの個性が分かって面白いですね。
ラルフ 最後に、試作品を2つ持ってきたのでぜひ飲んでみてください。1つは1999年蒸留の20年物です。何の樽を使ったか分かりますか?

――フルーティな感じがして、非常にクリーミー。
ラルフ どこか懐かしさを感じませんか?

――もしかしてミズナラですか?
ラルフ 当たりです(笑)。クリーミーでフローラル、アロマティックで、バニラアイスのような印象もあります。

――それでいてフレッシュな、削りたてのオークのような。これがもしボトリングされたら、世界が衝撃を受けるでしょうね。
ラルフ 次はまったくタイプの違う試作品です。

――すごくスモーキーですね。
ラルフ 2003年蒸留のシェリー樽熟成で、22ppmのピート麦芽で仕込みました。実は私とイアンがブラインドで飲んだ際、2人ともこれがグレンフィディックだとは思いませんでした。原酒を仕込んだのはイアン自身だったのですが(笑)。

――ベアード社の麦芽ということは本土のピートですね。アイラのピートと違ってドライな感じがしますよね。でもそれがグレンフィディックの酒質に非常にマッチしていると思います。
ラルフ 昨日すき焼きを食べたのですが、その焦げた感じ、それからバーベキューやベーコンっぽい感じもあります。

――ジューシーなベーコンですね。とても旨みがあります。
ラルフ 良い締めくくりになりましたね(笑)。

――まだ試作品とのことですが、今後の商品化を期待しています。

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