2022.07.22 Fri
ブッシュミルズ ブランドアンバサダー就任記念インタビューアイリッシュで熟成年数10年以上
この味わいの深さと複雑さは他にない
辻 英和さん(Scotch & Branch/京都)クラフトマンたちのプライドに感銘
辻 英和さんインタビュー ②
世界最古のウイスキー認可蒸溜所と言われるブッシュミルズの歴史をどのように感じていますか。
1987年までの100年余り、アイルランドには蒸溜所がたった2ヶ所しかなかったそうです。その一つはミドルトンで、もう一つがブッシュミルズです。1850年代の大麦麦芽への課税やアメリカの禁酒法など、多くの蒸溜所はその危機を乗り越えられず、閉鎖や統合を余儀なくされました。その中でブッシュミルズだけは他とは統合はせず、単独で蒸溜所を守り抜きました。そこにクラフトマンたちのプライドや誇りを感じます。それは本当にすごいことだと思います。
400年以上製法を変えず、大麦麦芽が課税されてもずっとシングルモルトだけをつくってきました。アイルランドでは実にめずらしことなんです。それが今も脈々と受け継がれている。伝統的で本当に素晴らしい歴史を持っていると思います。
ブッシュミルズのシングルモルトは10年以上寝かせていることから、味わいに余韻や複雑さが出てきます。そこが他にはないところだと思います。それと、シェリーをはじめ、マルサラワイン、ポートワインやマデイラワインなど色々な樽を使用しているのも深みや余韻につながっているんだと思います。
ブッシュミルズのシングルモルトはそれぞれのどのような味わいですか。
シェリー樽とバーボン樽原酒で構成された10年は、ハチミツやチョコレートなどの甘い香りとバーボン樽に由来するバニラ感をしっかりと感じます。マルサラフィニッシュの12年は軽やかだけど深みがあって、その矛盾した感じがとても面白いタイプですね。スパイス感のあるフルーツとバニラのような味わいがあります。ポートフィニッシュされた16年はかなりエステリーな感じがありながらも、ダークチョコレートやローストナッツといったニュアンスもあります。マデイラフィニッシュの21年はドライフルーツの風味が特徴的です。レーズンを思わせる余韻が続いて。21年ともなると一般的に深みや渋みが増すと思いますが、このフルーティーさには驚かされます。不思議ですね。
4つのレンジの中でどれがおすすめかと聞かれれば、私は迷わず12年と答えます。もうパーフェクトなんですよね、ハイボールでもカクテルでも、ストレートでもオールマイティーに使えて、しかもめちゃくちゃ美味しい。最初12年が発売された時、10年と16年の間って正直どうなのかなって思いましたけど、いい意味で裏切られました。シングルモルトの入り口としては最高だと思います。16年と21年は水を足さずストレートがおすすめで、10年についてはブランドアンバサダーとしてもっと良い活かし方を模索中です。
世界的にシングルモルトはノンエイジが増えている中で、10年、12年、16年、21年と4つものレンジが揃っているだけでプレミアムウイスキーにカテゴライズされると思います。私にとっては何よりも美味しいということだけで価値があります。シングルモルトも色々で、正直味わい的にこれはどうなのかなっていうものもたくさんあります。それに、価格が高いからプレミアムウイスキーと位置付けられているものもありますし。でも、ブッシュミルズは、長い歴史に裏打ちされたこのクオリティの高さはプレミアムウイスキーだと言えますね。
辻 英和(つじ ひでかず)
大学時代にアルバイトでバーの世界へ。卒業後、京都の「祇園FINLANDIA BAR」で修業。その後「ANNIE HALL BAR」で店長を勤める。2020年3月に独立し、スコッチウイスキーとカクテルをメインにした「Scotch & Branch」を開業。シングルモルトへの造詣が深く、ウイスキープロフェッショナルの資格を持つ。