2023.02.13 Mon
伝統工芸士・銀器職人 笠原 宗峰 氏ザ・バルヴェニー蒸溜所訪問記
クラフトマンシップ プロジェクト笠原 宗峰 氏(かさはら・しゅうほう)プロフィール
伝統的工芸品「東京銀器」の伝統工芸士。
東京都優秀技能者。
文京区技能名匠者。
1956年文京区本郷に笠原銀器製作所を設立。父宗峰(勲七等授章)の後を継ぎ鍛金工芸を主にした金銀器製作に携わり、現在も日夜研究し続け、新しい技法に挑戦。文化財の修理修復複製なども手掛け、国宝出雲大社秋の鹿蒔絵螺鈿手箱、三嶋大社 梅蒔絵手箱の複製なども手がける。
(写真:立木義浩氏撮影)
レンガ造りの蒸溜所が目の前に現れた時、「よく来たな」と語りかけられたような気がした。
田舎道を走る車から降り、敷地内に足を踏み入れると現れたのは、レンガ造りの飾り気のない建物。ザ・バルヴェニー蒸溜所だ。飛行機を乗り継ぎ、はるばる日本からやってきた伝統工芸士を、素っ気なく、しかし温かく歓迎しているようにも見える。
フロアモルティングのような「手仕事」を守り続けるのは大変な事。でも人が手をかけた分だけ、仕上がりに味が出る。
施設に入り、まず目に飛び込んできたのは大量の大麦。時期的にフロアモルティングの作業自体は行われていなかったものの、職人による手仕事を待つ山積みの大麦が、ザ・バルヴェニーの手作りへの強いこだわりを訴えかけてくる。「これだけの材料に対し、人の手をかけてコンディションを整え、最高の状態を維持するのは相当大変だね。機械がやってしまえばどの素材にも一律の加工をすることになるんだろうけど、職人が手をかけることで素材1個1個に目が届き、最高の仕上がりにできるんだろうね。」笠原氏が初めてザ・バルヴェニーのクラフトマンシップに触れた瞬間だ。
伝統的なフロアモルティングの詳細はこちら
銀器と同じように、ポットスチルも金属。ほんの少しの変化が味に影響を与えるからこそ、専属の職人がいる。
いよいよ施設の中枢、ポットスチルのあるエリアへ到着すると、ザ・バルヴェニーの特徴的な形をした銅製の釜が姿を現した。その形状から“バルヴェニーボール“と呼ばれるこぶの付いたポットスチルだ。ネック下部がボール型に膨らみ、蒸気がヘッドまで上昇する際、より長い時間をかけじっくり混ざり合う構造。数ある工程の中で最も味わいに影響を与えるプロセスと言っても過言ではない。そのためザ・バルヴェニーには専属の銅器職人がおり、ポットスチルの形状を維持するために日々メンテナンスを行っている。「金属も生き物だからね。日々変化するし、職人の関わり方で良くも悪くもなる。毎日手を入れているのは納得だね。」そう言うと笠原氏は何かを感じ取るように、じっとバルヴェニーボールを見つめ続けた。
常駐する銅器職人(コッパー )の詳細はこちら
ダブルウッドそれぞれの息づかいを手で感じながら、熟練工が毎日樽のコンディションを整える。職人の「手」はどんな機械よりも正確。
ザ・バルヴェニーの味わいに欠かせない、バーボン樽とシェリー樽、2種の熟成樽。異なる2つの樽で熟成させることでそれぞれの特徴が活かされ、絶妙なハーモニーで深みのある味わいになるという。専門の職人が長い時間、手間をかけて手作業でメンテナンスしている樽に実際に触れ、クラフトマンシップを肌で感じ取る笠原氏。「手間をかければかけただけ、応えてくれるのが職人の世界だよね。この樽もきっと、味わいで応えてくれようとしてるんだろうね。」そう言いながら慈しむように感触を確かめていた。
クーパレッジと樽職人(クーパー)の詳細はこちら
ザ・バルヴェニーに息づく職人魂。銀器職人として、創作への大いなる刺激を受けた旅。
ザ・バルヴェニー専用オリジナルグラス製作にあたり、インスピレーションを得るため現地を訪れた笠原氏。製作にあたってのヒントを探す旅は、次第に日本の伝統工芸士とザ・バルヴェニーの職人たちとのクラフトマンシップのぶつかり合いの旅となっていった。
実際に触れ、感じた職人魂が、一体どんな風に作品に反映されるのか。その答えは次回の「オリジナル銀器開発ストーリー編」にてご確認ください。