2023.09.15 Fri
カンパリグループ・カクテルグランプリ審査員
「アペリティーボ」スペシャルインタビュー「バーテンダー人生で自身の財産となる
一生物のシグネチャーを生み出して」
坪倉健児さん(Bar Rocking chair)2023年10月、カンパリグループのCT Spirits Japanは、「アペリティーボ&パイオニア」をテーマとした日本最高峰を決めるカクテルコンペティション「カンパリグループ・カクテルグランプリ2023」を開催する〈応募期間:2023年10月1日(日) 23時59分まで〉。
大会の目的は、イタリアには欠かせない「アペリティーボ」文化の浸透、そしてカクテルの新時代を切り開くような「パイオニアカクテル」の創造をすること。
優勝者には、カンパリグループのブランドをより探求するためのイタリア研修旅行が贈呈される。
審査員は、前年優勝を果たした江刺幸治さん、カンパリブランドアンバサダーを務める小川尚人さん、世界をまたにかけて第一線で活躍するバーテンダーの南雲主于三さん、後閑信吾さん、坪倉健児さんという豪華な顔ぶれ。
大会を前に、「アペリティーボ」にふさわしいカクテルと挑戦者へのメッセージを、審査員ひとりずつに訊いた。
カンパリグループ・カクテルグランプリ2023 審査員 坪倉健児(つぼくら けんじ)さん
1974年生まれ。大学時代に始めたアルバイトをきっかけにバーの世界へ。東京・霞ヶ関の「BARガスライト」で6年間、地元である京都・木屋町二条の「K6」で4年半の修業を経て、2009年に「Bar Rocking chair」を開業。2015年に「第42回全国バーテンダー技能競技大会」で総合優勝し、その翌年、東京で開催された世界大会「ワールド・カクテル・チャンピオンシップ」にて総合優勝。日本人としては2人目となる「ワールド・バーテンダー・オブ・ザ・イヤー」に輝く。
築100年以上の町家をリノベーションした趣ある雰囲気の「バー ロッキングチェア」。店名の通り、薪をくべる本物の暖炉の前にはロッキングチェアが配され、ゆるやかな時間が流れている。とにかくゆっくりとお酒を愉しんでほしい、そんな坪倉さんの想いが詰まった空間だ。しかし、普段の坪倉さん自身には、ゆったりとお酒を味わう時間はなかなかない。食前に軽いつまみとお酒を愉しむイタリアの文化「アペリティーボ」となるとなおさらだ。
「以前、妻とポルトガルへ旅行した時に、日が斜めに落ちて赤く照らされたカフェのテラス席で、ちょっと暑いねとか、夕ご飯どうする?なんて言いながら二人でロゼポートニックを飲んだことを思い出しました。僕にとってそれがまさにアペリティーボのイメージです。これから何を食べよう、何をしよう、今から過ごすゆったりくつろぐ時間への期待感を増幅させてくれるものこそがアペリティーボの魅力だと思うんです」
イタリアとまではいかないにしても、日本でもお酒を飲む時間帯が少しずつ変化してきていると坪倉さんは言う。
「コロナ禍で、多くの飲食店が営業時間を前倒しにしたことで、早い時間帯からお酒を飲む機会が増えたと感じます。うちも17時からの営業に変えましたが、軽く飲んでから食事に行かれるというお客様も結構いらっしゃいます。もし、お食事前にバーを利用されるようでしたら、この後何を食べるのかバーテンダーに相談していただければ、ぴったりのアペリティーボカクテルをご提案しますよ。お食事への期待感を高めるのも我々の仕事ですから」
「アペリティーボ」カクテルの代表格として本場イタリアでも親しまれているのが、カンパリ。ではなぜカンパリは食前酒に向いているのか、その理由を訊ねると。
「あの独特の苦味にあると思います。カクテルにおいて、苦味はとても重要なテイストのひとつなので、僕自身もすごく意識しています。特にカンパリの苦味は多様性があって、つくり方一つでその出方が変わるんです。扱い方で主張の強い苦さにもなるし、まろやかで奥深い苦味にもなる。自分が思う美味しい苦味がどうやったら出せるのか、それはもう素材と向き合わなきゃダメなんですよね」
カンパリを使ったカクテルとして、まず思い浮かぶのがネグローニではないだろうか。実は坪倉さん、このネグローニの味わいがあまり好みではなかったとか。しかし、あることをきっかけに、つくり方を変えてみたところ、納得のいく一杯が完成したという。
「ネグローニは、どうしても苦味が前に立ってしまうので、僕の中で美味しさをストレートに感じにくいなって思っていたんです。でも、どこのバーでも同じようにつくるし、これはなかなか日本人にはバランスがとりにくいカクテルだなって。バーテンダーとしてそんな風に思っちゃいけないんですけどね(笑)。そんな折、セミナー講師の依頼があって、ソムリエの方にネグローニのつくり方をご紹介する機会がありました。インバウンドが増え、レストランでも食前酒にネグローニのオーダーが増えているとのことでした。皆さんバーテンダーではないので、バースプーンを使ってステアとなるとハードルが上がる。じゃあ、ソムリエの方が普段から使う手法でと考えた時、ヴィンテージワインの香りを開かせるため、グラスを静かにゆっくりと回す手法を使ってみようかなと。つまりスワリングですね。しかもこの方法なら、カンパリの苦味や深みを美味しく引き出せることも分かったんです。ステアの技法を分析し、すごく真剣に素材とつくり方に向き合ったからこそ導き出された答えだったと思います」
求められるカクテルの方向性を考え、最適にする技術が重要と語る坪倉さん。「アペリティーボ」カクテルを開発する上で、もう一つ大切なポイントがあるという。
「カクテル全般に言えることですが、特にアペリティーボカクテルでは引き算の考えが重要だと思います。昨今、味を重ねて重ねて、複雑にするレシピが多すぎると感じます。そんな複雑なテイストを重ねたカクテルの後に、じゃあ今から食事ってならないですよね。材料の種類を減らし、シンプルに美味しさを引き出す。こうした考えは、アペリティーボカクテルにより当てはまると思います。元々日本のバー文化は、レシピも技術も海外から入ってきたもので、そのままつくってもカクテルに馴染みのない日本人には美味しいと感じなかったんじゃないかと想像できます。ならば、日本人の舌に合う味をつくろうと、シェークの回数や振り方、氷にいたるまで一生懸命考えた末、完成したのが今の日本のスタイルだと思うんですね。自分の持てる技術でいかに美味しくしていくか、それがひいては素材にも向き合うということだと思います」
「僕にとってカクテルコンペティションに挑戦することは、カクテルの文化や潮流を広く理解し、自分の技術や味覚、持てる能力をできるだけ深く掘り下げ、評価されながら磨く、そんな場所でした。時間的制約やプレッシャーもありますが、真剣に向き合えば向き合うほど、費やした多くの時間はきっとあなたを後押しする『宝』になると思います。これからのバーテンダー人生において、あなたの財産となるような、一生もののシグネチャーカクテルを是非生み出してください」
大会審査員である坪倉健児さんに、オリジナルの「アペリティーボ」カクテルをつくっていただきました。カクテルの詳細は後日公開いたします。
100年以上の歴史を持つ町家を改装したバー。店内にはロッキングチェアや暖炉も配備され、ゆったりしながらカクテルを楽しめる。現代的なアプローチで創作するクラシックカクテルや京都の素材を使ったフードも充実。世界中のバーホッパーが訪れる京都を代表する名店の一つ。「The Asia’s 50 Best Bars 2022」で79位にランクイン。
京都府京都市下京区御幸町通仏光寺下ル橘町434−2
Tel: 075-496-8679