2023.11.6 Mon
アンバサダーが語るボタニカルへのこだわりとは?日本一のバーテンダーと行く
『ボンベイ・サファイア蒸溜所』前編
LiquorPage青く輝く美しいボトルで知られる『ボンベイ・サファイア』は、日本でも人気のジンですが…その蒸溜所の様子やリアルな製造現場を見てみたい方は少なくないのではないでしょうか?
LiquorPageでは、そのジンが造られるロンドン近郊の蒸溜所『ボンベイ・サファイア蒸溜所(正式名:ラヴァーストーク蒸溜所)』を訪問。
今年6月に日本で開催された『ボンベイ・サファイア プレミアクリュ』のカクテルコンペティションで日本一に輝いたバーテンダー、加藤晋悟さん(THE SAILING BAR/奈良・桜井市)に優勝特典として贈られた、蒸溜所訪問、およびロンドンバーツアーに密着してきました。
今回の記事では、加藤さんと一緒に巡った蒸溜所の中の様子を、写真を多用しながら前編と後編に分けて詳しくご紹介。
バーテンダーなりの視点や感想を交えながら、その際の様子を振り返ります。現地を訪問したからこそ分かるこだわりなど、日本ではなかなか知り得ない『ボンベイ・サファイア』の情報が満載です!
アンバサダーが語る『ボンベイ・サファイア』と他のジンの違い
ロンドンの中心部から車を走らせること、およそ1時間半。
イギリスらしい田舎の風景を抜けた先に突然現れる、どこか歴史を感じさせる巨大な洋風の建物こそがボンベイ・サファイアのラヴァーストーク蒸溜所です。豊かな自然に囲まれた蒸溜所に心踊らされていた中、陽気に出迎えてくれたのは『ボンベイ・サファイア』のシニアブランドアンバサダーを務めるサム・カーターさん。
サムさんからまず語られたのは『ボンベイ・サファイア』と他のジンとの違いについて。
「通常のジンはボタニカルをアルコールの中に漬け込んで蒸溜しますが、漬け込みをしないで蒸溜の際の蒸気をボタニカルにとおすことで香りづけする“ヴェイパーインフュージョン製法”が当ブランドの特長で、ボタニカルのフレッシュな香りを表現したいのでこの製法を用いています。特長が強いジンが多い中で、各ボタニカルの特長を全体に馴染ませてバランスの良さを出すことを重要視しています」
世界中から調達された10種類のボタニカルが使われる『ボンベイ・サファイア』ですが、その香りには5つの要素があるのだとか。
まず1つは“パイン(パイン=松、いわゆるジュニパーベリーの香り)”、2つ目が“シトラス”、3つ目が“アーシー(サムさん曰く「大地の根っこの香り」)”、4つ目が“フローラル”、そして5つ目が“スパイス”です。
「要素別にカテゴリー分けされていることは初めて知りました。しかもそれぞれの役割がはっきりしていることに驚きましたし、試飲することでより、それを感じられました」と語る加藤さん。
圧倒的にジン&トニックが人気…ロンドンのジントレンド
バーテンダーである加藤さんが特に気になったことの一つが『ボンベイ・サファイア』をはじめとしたジンが、現在ロンドンでどのように飲まれているのか。サムさん曰く「ネルソン社によれば、ジンはその78%がジン&トニックとして飲まれているとされています」と、やはりジン&トニックが圧倒的に人気とのこと。
その他のカクテルについては「やはりネグローニがいちばんの人気」と前置きしつつも「トムコリンズやアヴィエーションなどのクラシックカクテルの現代風のアレンジや、ヴェルモットを多く使ったウェットマティーニも人気になってきています。(ドライではなく)ビアンコヴェルモットを使った甘めのマティーニも個人的にはオススメです。それと、消費の傾向が量より質に移行している中で、ボンベイ・サファイア プレミアクリュを使ったプレミアムなフレンチ75も増えてきていますね」と語ります。
ボタニカル見学 – 外観が美しい「グラスハウス」では2つの気候を再現
サムさんによる基本的な説明が終わった後は、いよいよ蒸溜所内の設備見学へ。まず向かったのは、流線が特長的なガラスの温室です。
著名なデザイナーであるトーマス・ヘザウィック氏(最近では麻布台ヒルズを手がけたことでも有名)が手がけたこちらの設備内では『ボンベイ・サファイア』に使われている10種類のボタニカルが標本として栽培されています。2つある設備のうち、1つはアフリカや東南アジアの熱帯の気候が再現されており、実際にそうした地域で育つカシア樹皮やクベバベリーなどが植えられています。もう1つは乾燥した温帯地中海性気候が再現されており、ジュニパーベリーやオリスなどが植えられています。驚くことにこれらの温度管理には、蒸溜時に発生した熱が再活用されているのだそう。「入ってみて、動物園の熱帯エリアのように暑いなと感じたのですが、これを蒸溜の廃熱でまかなっているのはすごいですし、サスティナブルですよね」と加藤さん。
数あるボタニカルの中でも特に印象的だったのは、ガーナから輸入しているというグレインズオブパラダイス。
「実はアフリカ全土で採れるのですが、一つの村とのみ取引をし、そこで学校を作ったりしながら村の発展に寄与しているんです」とサムさんは説明します。
ちなみに、ジンと名乗るために欠かせないボタニカルであるジュニパーベリーは、イタリア・トスカーナ地方のものが使用されているのですが、実は現地では、その収穫は専用の免許を持った人しかできないのだとか。『ボンベイ・サファイア』では、大まかに100人ぐらいと契約して直接仕入れているそうです。その他のボタニカルも、卸売業者などを介さず、全て農家に会った上で直接契約し、トレーサビリティも重視しながら持続可能な取引をすることもこだわりの一つとのことでした。
「ただ見せるだけではなくて、アートとしての見せ方にボンベイ・サファイアらしさを感じますね。それに、一つ一つのボタニカルの香味が気になってくる見せ方だなと…」そう加藤さん語る中、温かい温室を抜けて、実際に蒸溜に使用する状態のボタニカルが展示されているスペースへ移動。こちらでは各ボタニカルの香りを嗅ぐことができます。
サムさんの一番のお気に入りだというトスカーナ産のジュニパーベリーは、日本で見るものより実がずっと大ぶり。味わってみたところ「オイリーさをしっかり感じましたが、何より甘さに驚きました。日本で味わうものとはまるで違う…」と加藤さん。実際のところ、トスカーナ産のものは、糖度が高いのだそうです。その実は潰した状態で使用されますが、大量に使用されるにも関わらず、なんと人の手で潰しているのだそうです。
後編へ続く…
ボタニカルを見学した後は、蒸溜所内にあるカフェ『The Mill Café』で昼食。
「海外らしくボリューミーではありましたが、美味しかったですね」と加藤さん。
「(蒸溜所に)着いたときは、伝統的な建物だと思いましたが、中に入ってみると近代化していて、伝統と革新の見事な融合を感じられました。それに、すれ違うスタッフさんたちが皆初めて会ったとは思えないほどフレンドリーでした。そしてサムさんのボンベイ・サファイア愛がすごい…」と、ここまでを振り返ります。
さて、前編はここまで。
後編では、核となるボタニカルの蒸溜工程や蒸溜所が取り組むサスティナビリテイ、カクテルテイスティングの様子などをご紹介します。