2024.08.27 Tue
グレンドロナック スペシャルイベントマスターブレンダー
レイチェル・バリー博士が初来日
BAR TIMES レポート
グレンドロナック蒸溜所は1826年、ジェイムズ・アラダイス氏により誕生。ボインズミル・エステートとして知られる、古い農場の跡地に建てられた。それから190年の時を経て、2016年にブラウンフォーマン社の手に渡る。翌年、レイチェル博士がマスターブレンダーに任命されてからの主な動きは次のとおりだ。
- 2019年 映画『キングスマン』とタイアップした限定商品をリリース
- 2021年 50年熟成のグレンドロナックを出荷
- 2022年 ロンドンのラグジュアリー企業団体“Walpole”へ加入
- 2023年 蒸溜所を拡大
そして今年はパッケージをリニューアルし、エレガントなデザインへ。2026年に迎える200周年記念に向けて、ウェアハウスの拡大やビジターセンターの改修も行っている。
レイチェル博士によると、グレンドロナックの特長は次の3つ。
- ハイランドスピリット
- スペインの品格
- フレーバーの新境地
「ハイランドスピリット」はグレンドロナック蒸溜所があるスコットランド・ハイランド地方の伝統、個性、精神を表している。その名の由来となったブラックベリーの谷に囲まれ、多くのベリーをはじめ野菜、穀物も豊富な素晴らしい景観で、城も点在するという。伝統的なスコットランド産のカラマツ製発酵槽と、ブラウンフォーマン社独自のサックス型銅製蒸留器を用い、床積み式の倉庫で熟成。創業者ジェイムズ・アラダイス氏のウイスキー造りが今も受け継がれている。ニューメイクスピリッツはベリーやオレンジのトップノート、チョコレート、レザー、タバコのベースノート、それからお茶のようなニュアンスがあるとレイチェル博士は語る。
また、グレンドロナックといえば上質なシェリー樽での熟成で、これが「スペインの品格」として紹介された。ジェイムズ・アラダイス氏によるシェリー樽熟成の技術を忠実に守り、時間の経過と共に洗練されてきたという。シェリー樽はアメリカンオーク、ヨーロピアンオークが使われることが多いが、グレンドロナックではスペイン南部・アンダルシア地方の希少な樽を選んでいる。“シェリーの王様”と呼ばれる甘く芳醇なPX(ペドロヒメネス)とフルーティ&ナッティなオロロソ、2つのシェリー樽の融合が濃厚な風味と複雑さ、素晴らしいバランスをもたらす。
「フレーバーの新境地」についてはウイスキー評論家である土屋守氏がゲストとして登壇し、レイチェル博士と共にテイスティングをしながら解説が行われた。
まず、グレンドロナックのフレーバーには「フルーティ」「エレガント」「リッチ&ロバスト」「フルボディ」といった4つの要素があるという。例えば濃い色の果実、ブラックベリー、スパイス、ダークチョコレート、土っぽいタバコとレザー、レーズンや煮込んだフルーツのような豊かな味わい。これらはグレンドロナックのハウススタイルで、オーケストラの指揮者のようにこれらのバランスを取るのがレイチェル博士だ。
グレンドロナック12年の色は琥珀色のゴールド。蒸溜所の特徴を体現する一本で、チョコレートのプラリネやジンジャーブレッドのアロマとシルキーなオレンジ、サルタナのテイストが感じられる。土屋氏の「ベリー系のフルーツの風味があり、スムースでバランスが良い。PXとオロロソ樽の使い方がとても上手ですね。その比率を教えて頂けませんか?」という質問に、レイチェル博士は“シークレット”と微笑みながらも「毎回必ずそうとは言えませんが、グレンドロナック12年は、おおよそ過半数以上がPXです」と答えた。ペアリングフードとして出された「マンディアン(チョコレートにナッツやドライフルーツをトッピングしたもの)」と合わせると、博士が“フレーバーのクレッシェンド”と表現したようにそのフレーバーが高まっていくのがわかる。レイチェル博士の12年に対するイメージは秋で、ウェルカムドリンクにも出された「ロブ・ロイ」などのカクテルにもよく合うとのこと。一方、土屋氏は春のイメージを持ったようで、チョコレート以外に餡子とも相性が良いのではないかと話した。
次に、グレンドロナック15年の色はアンティークブロンズ。熟したブラックベリーやダークチョコレートミントのアロマと、蜂蜜をかけたアプリコットと熟したイチジク、マスカットの風味などが感じられる。12年より洗練されたエレガントで複雑な風味、フルボディさがあり、レイチェル博士が捉えた日本のお茶のようなニュアンスは「旨味成分ではないか」と土屋氏。ペアリングフードには「トリュフ&マッシュルームアランチーニ」が供され、キノコの旨味との相乗効果を発揮していた。
そして、グレンドロナック18年。色は琥珀色のアンティークブロンズ。さらにフルボディで力強さがあり、芳醇で濃厚、ベルベットのような余韻がいつまでも続く。土屋氏は「12年、15年とは全く別物」だと話し、「スパニッシュオークのオロロソ樽の持つ要素がこの一杯にすべて含まれている。樽の選び方が素晴らしい。レイチェル博士は魔術師」と感心した。アロマはフルーツのコンポートとモレロチェリー、テイストは煮込んだフルーツとオールスパイス、トーストしたクルミパンなど。「お肉やブルーチーズはオロロソシェリー樽の長期熟成と合う」と土屋氏が話したように、ペアリングフードの「ローストビーフ タルタル ゴルゴンゾーラ」が18年とマッチしていた。
2時間に及ぶスペシャルイベントはあっという間に幕を閉じ、グレンドロナックの魅力が大いに伝わる会となった。レイチェル・バリー博士はその中で、次のように語っている。今後の動向が楽しみだ。
「いま蒸溜所へお越し頂くのも、もちろん嬉しいです。しかし、蒸溜所が200周年を迎える2026年には、さらに素晴らしい経験をして頂くための“Raise Expectations(期待を高める)”準備を行っています」
取材・文 いしかわあさこ
バーとカクテルの専門ライター。ウイスキー専門誌『Whisky World』の編集を経て、フリーランスに。
編・著書に『The Art of Advanced Cocktail 最先端カクテルの技術』『Standard Cocktails With a Twist スタンダードカクテルの再構築』(旭屋出版)『重鎮バーテンダーが紡ぐスタンダード・カクテル』『バーへ行こう』『ウイスキー ハイボール大全』『モクテル & ローアルコールカクテル』『ジン カクテル』『ウイスキー カクテル』(スタジオタッククリエイティブ)がある。
2019年、ドキュメンタリー映画『YUKIGUNI』にアドバイザーとして参加。
落語と飲食店巡りが好き。愛犬の名前は“カリラ”。