fbpx

バーをこよなく愛すバーファンのための WEB マガジン

NEW2025.02.27 Thu

沖縄の新しい蒸留酒ブランド「kagan(カガン)」蒸留ストーリー「kagan」第1弾は「たんかん」の甘い香りと瑞々しい果実味を鮮明に感じる蒸留酒。

平良寛進さん(石川酒造場 研究開発部)
沖縄の豊かな自然が育んだ素材を使い、現代の酒類として表現するブランド「kagan(カガン)」。沖縄の言葉で「鏡」を意味し、島の恵みをこれまでにない形で映し出す新しい蒸留酒である。
観光向けのデフォルメされた商品が多いなか、泡盛の姉妹ブランド「shimmer(シマー)」とまた異なる視点と手法で沖縄産素材の可能性を最大限に引き出す。スピリッツ、リキュール、ビターズの3つのジャンルで展開し、プロフェッショナルな用途に応える本格的な酒類だ。

2025年3月19日、「kagan」から第1弾となる「たんかんスピリッツ」が登場する。沖縄特産の柑橘「たんかん」の個性豊かな香りと味わいが凝縮したスピリッツはどんな手法で造られたのか。製造を担当する石川酒造場・平良寛進さんに話を訊いた。
 

「kagan」は明確に沖縄のボタニカルに振り切り、突き詰めたスピリッツ

 
沖縄で唯一、甕でもろみの発酵や甕貯蔵を行っている泡盛の製造元・石川酒造場。平良寛進さんは、そこでクラフトジンを中心としたスピリッツやリキュールの研究開発と製造を担当し、伝統的な泡盛とはまた別の新しいスピリッツを生み出してきた。これまでも、沖縄のボタニカルを活用することは多々。でも「kagan」においては、これまでのスピリッツと何が違うというのだろうか。

平良寛進さん(石川酒造場 研究開発部)
石川酒造にてスピリッツを専門に製造する。沖縄のボタニカルに焦点を当てたスピリッツ造りを得意とし、手掛けたクラフトジンが東京ウイスキー&スピリッツコンペティションで金賞を受賞するなどの実績を持つ。3回蒸留をすることで柔らかくクリアな飲み口を生む革新的な泡盛「尚」の開発の中心メンバーでもある。 
 
「『kagan』のプロジェクトは、これまでの酒造場の取り組みよりも明確に沖縄のボタニカルに焦点を当て、さらに解像度を高くしたものづくりの取り組みです。振り切って、突き詰める。そこが異なります。また、沖縄エリアで地元の特有のボタニカルにこだわって造ったお酒が単体で発売されることはあっても、シリーズ化やブランディングする企画はあまりなかったので、ほかの商品と差別化できる点だと思います」

 

第1弾は果皮をふんだんに使用し、
たんかんの甘い香りと瑞々しい果実味を鮮明に感じられる「たんかんスピリッツ」

 

2025年3月19日には、「kagan」の第1弾となる「たんかんスピリッツ」が発売する。沖縄らしい柑橘であること、そして平良さんにたんかんを使いこなすノウハウがあったことから焦点を当てた。平良さんとたんかんの生産者は約7年前から交流があり、スピリッツを通してその価値を高めたいという思いもある。


沖縄を代表する柑橘、たんかん。冬に燃えるようなオレンジ色の実をつける。皮は薄く、たっぷり果汁を含んだ果肉が持ち味だが、スピリッツ造りには皮が大事な素材となる。

「沖縄で昔から柑橘の生産が盛んな本部町伊豆味という山間にある地区でたんかん狩りを運営している『久場みかん園』を訪れ、久場ご夫婦にたんかんでお酒を造るのでオレンジ色に熟したものが欲しいとあれこれ相談したのが始まりでした。そこから原料としての使用量が増えていったので、伊豆味地区全体の柑橘を卸している『伊豆味 みかんの里』を紹介してもらいました。現在は、そちらの担当者に熟したタンカンを目利きしてもらって仕入れています。沖縄全体で柑橘生産者の高齢化が進み、事業を継ぐ若い人が少ないと懸念されています。伊豆味地区も例外ではなく影響が出ているそうです。お酒を通してタンカンの価値を高め、持続可能な生産へ少しでも貢献したいと考えます」
 
造りの面ではどんなアプローチをし、着地させたのだろうか。

「たんかんの果皮をふんだんにベーススピリッツに浸漬して蒸留し、甘い香りを鮮明に感じるようにしました。沖縄在来のシナモンの仲間であるカラキのリーフを浸漬・蒸留したスピリッツを少し足すことで、甘い風味を底上げしました。カラキリーフには柑橘果皮の刺激感を和らげる効果もあるため、バランスよく仕上がります。アルコール分を48度と高めに設定することで、ボタニカルの香りをできるだけ多く内包します。飲んでみると、鼻に抜けるタンカンの甘い香りで瑞々しい果実の印象があると思います。クリアに仕立てた泡盛をベーススピリッツにしているので、米麹由来のほんのり甘い味わいも感じられます」

 

2回蒸留の泡盛がベーススピリッツ。
度数48度、銅充填物を活用し、たんかんの香りを極力スピリッツに内包させる

 

「たんかんスピリッツ」は、原酒を冷却ろ過して再度蒸留した泡盛をベースに、たんかんの果皮とカラキのリーフをそれぞれ単体で浸漬して蒸留したスピリッツを使う。さらに、よりよい酒質をめざし、蒸留はこれまでの手法を見直して新しくも珍しいアプローチを取り入れた。

「いくつか試し、銅充填物の活用で従来よりも刺激を抑えた酒質にすることができました。銅充填物とは蒸留する際に出る蒸気の障害物で、銅に触れる面積を広くすることで硫黄化合物を効率よくトラップし、よりクリアな酒質になるのです。『kagan』で初めて、製造スケールの300ℓの蒸留機に付属するバスケットに銅充填物を満たして蒸留しました」

2021年に導入した300ℓ、ステンレス製の蒸留機。現在はおもにスピリッツ造りで活躍。 
これが銅充填物。現在の設備を活かしながらクリアな酒質を生む手段として活用。

充填物を用いるのは全国的に見ても珍しく、平良さんは1ℓ、50ℓとスケールアップしながら試行錯誤をして、現在の手法に着地させた。
スピリッツの風味を打ち出すには、単に果皮の量を増やせばいいというものではない。蒸留のどの部分を抜き取るか、もまた大事なアプローチとなる。

「たんかんのきれいな香り、口にふくらむ余韻を大事にしたくて、華やかな印象の初留だけでなく、ふくよかさも感じられる中留までひっぱったものを集めることにしました。たんかんの香りをできるだけお酒に内包しようとすると、果皮の精油分の白濁があり酒質の調整が難しい面がありました。解決策を模索した結果、3回蒸留した泡盛を加えて調整することで解決できました。こういった手法や蒸留方法の幅を広げることができ、僕自身、次の新しい『kagan』へのモチベーションが向上しています」

観光立県である沖縄には、県外や海外から多くの観光客が訪れる。ホテルや市街のレストランでの簡単なカクテルのウェルカムドリンク的に、あるいは地元の人たちとバーベキューやビーチパーティーに手軽な炭酸割りで。沖縄の魅力を伝えるツールのひとつにもなりうるし、地元の恵みを再認識するお酒にもなりうる。
香りがわかりやすいシンプルな炭酸割り、あるいはミントとキビ砂糖、炭酸を合わせたモヒート風に。香りや味わいが引き立つ飲み方で、存分に「たんかんスピリッツ」の持ち味を堪能したい。

「地元バーテンダー インタビュー編」

kagan オフィシャルサイトはこちら
「kagan Vol.1 たんかんスピリッツ」商品ページはこちら 
 

インタビュー・文 沼 由美子
ライター、編集者。醸造酒、蒸留酒を共に愛しており、バー巡りがライフワーク。著書に『オンナひとり、ときどきふたり飲み』(交通新聞社)。取材・執筆に『EST! カクテルブック』『読本 本格焼酎。』、編集に『神林先生の浅草案内(未完)』(ともにプレジデント社)などがある。

関連記事はこちら

PAGE TOP