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新たな魅力を発見するプレミアムテキーラの世界テキーラの楽しみ方
林 生馬(日本テキーラ協会会長)先述のように、日本でのミクストテキーラのイメージと、100%アガベテキーラのイメージは真逆のものとなっている。
2020年にコロナ禍があり、いわゆる家飲みという形での消費が多くなった。アメリカでは家庭でゆっくりと100%アガベテキーラを飲む人が飛躍的に増え、北米市場での100%アガベテキーラの売り上げは大きく上昇する事となった。
日本では、ミクストテキーラのダンスクラブ等での消費が多かったので、コロナ禍でのテキーラの消費は減少傾向であったが、100%アガベテキーラは日本でも家飲みが多かったため減少せずに、テキーラの全体的な消費量は下がったものの100%アガベテキーラの割合が相対的には上がることとなった。2022年にスピリッツの消費が戻ってきた頃、予想外にもその割合を維持しながら戻ったため100%アガベテキーラの比率を大きく伸ばすこととなり、2023年に日本では100%アガベテキーラの消費量を飛躍的に伸ばすこととなった。
メキシコでは米国に引っ張られたインフレや、アガベ不足でテキーラの価格が上昇すると同時に、日本は極端な円安に悩まされることとなる。メキシコのペソに対する円も50%ほど値下がりし、日本の輸入社は日本でのテキーラ販売価格を大きく上げざるを得なくなる。そこで各社が輸入販売を始めたのが、ウルトラプレミアムなどと称される超高価格帯の高級テキーラだ。1本3万円前後の価格帯のテキーラは100%アガベであることはもちろん、パッケージにも非常に手間のかかった商品だ。高価格帯であることや新商品として導入することが円安のデメリットを吸収しやすかったという事情もあり、欧米ではウルトラプレミアムと言われる商品が日本でのテキーラ販売額を押し上げた大きな一因にもなっている。
CRTテキーラ規制委員会のデータでは、2022年から2023年にかけての日本への輸出量は前年比53.6%増となっている。これは量換算であるので、高価格帯のテキーラが増えた現在は輸出額での増加率はもっと高いと考えて良いだろう。バーでも酒販店でも飲食店でもプレミアムクラス、またはウルトラプレミアムクラスのテキーラを目にする機会が確実に増えている。
メスカルはテキーラと違い、もっと南のオアハカ州を中心としたアガベスピリッツの原産地呼称である。メスカルとは元々メキシコでアガベを原料とした蒸留酒の総称であった。つまりテキーラも元々は「テキーラ村のメスカル」と呼ばれていた。そのテキーラ村のメスカルが1974年にメキシコ初の原産地呼称としてメスカルから独立。テキーラ村のメスカルは、テキーラとなった。
2021年から2023年に日本へ輸出されたテキーラの輸出量 ※出典元:テキーラ規制評議会(CRT)
2021年から2023年に日本へ輸出された100%アガベテキーラの輸出量 ※出典元:テキーラ規制評議会(CRT)
そのテキーラが原産地呼称として大成功をおさめる中、メスカルの売り上げは低迷。そのメスカルがテキーラに倣い、南部オアハカ州を中心に新たに9つの州の原産地呼称となったのが現在のメスカルである。さらにメキシコ北部にはソトルというアガベスピリッツの原産地呼称も成立し、2013年以降は中部ハリスコ州中心のテキーラと、南部オアハカ州中心のメスカル、北部のソトルというアガベスピリッツの3大原産地呼称へと変化を遂げた。さらにバカノラやライシージャなどのアガベスピリッツの原産地呼称も立ち上がり、アガベスピリッツは百花繚乱の模様をみせており、多くがすでに日本に輸入されている。
これらのアガベスピリッツは、ウイスキーと同じようにストレートで味わって十分に楽しめる造りとなっている。これまでの細長いショットグラス「カバジート」ではアロマがほとんどわからないので、フルート型のグラス、またはシャンパングラスで飲む方法がアロマを十分に楽しめる。高い度数に慣れていなければオンザロックでも楽しめる。
テキーラや他のアガベスピリッツは樽熟成が強くないので、料理にも比較的合わせやすい。特にブランコはオンザロックで多くの料理に合うであろう。日本では寿司と合わせる「寿司テキ」の人気も上がっており、テキーラを前日にトワイスアップして置いておく「前割り」などで工夫して楽しんでいる。
文/林 生馬(日本テキーラ協会会長)
1968年東京生まれ。カリフォルニア州で映画制作スタッフとして活躍。ハリウッド・ビジネスの中枢で活動中に周囲の影響からテキーラに出会う。映画スタッフらをはじめ、ショーン・コネリーや北野武監督らとテキーラを酌み交わす経験を得て、テキーラの最先端の飲み方およびテキーラブームの到来を目の当たりにする。訪れた蒸留所は100を数えテイスティングした銘柄は2000を超える。テキーラ蒸留所のスタッフやテキーラ・アンバサダーとの親交も深く日本へ帰国後2008年7月に「日本テキーラ協会」を創立。メキシコ大使館やFOODEXをはじめ、日本全国の会場でテキーラの講習会を行う。著書に「テキーラ大鑑(廣済堂出版)」 TVやラジオ、新聞、雑誌など各種メディアへの出演多数。