
NEW2025.06.24 Tue
たまさぶろのBAR遊記新商品「Clase Azul Tequila Blanco Ahumado」MADURO(マデュロ)にて試飲会開催
たまさぶろ BAR評論家、エッセイスト
テキーラと聞き、いまだにショットの一気飲みを想起する方がいらっしゃるとしたら、その方はまだ昭和の時代を生きているのかもしれない。現在のテキーラはすっかり高級志向となり、アメリカでは2番目に好まれる蒸留酒というステータスを築き上げている。その代表がメキシコ発のラグジュアリー・テキーラ・ブランド「クラセアスール(Clase Azul)」だ。
ロメリ氏は試飲会に先立ち「日本の文化に、文化的背景とそこから生まれて来る繊細な芸術性に尊敬を抱いている」と口火を切った。「特にクラフトマンシップに対する尊敬の念に非常に共感している。そして我々もクラフトマンシップにこだわってきたが故に、ここまで成長できた」と自身の歩みを振り返った。

アルトゥーロ・ロメリ(Arturo Lomelí)氏
伝統の製法、古の火、現代の情熱
クラセアスールの新作において注目すべき点は、単にスモーキーなフレーバーを加えたからではない。クラセアスールは工場で生産されるのではなく、地面に竪穴を掘り加熱する伝統製法「ピットオーブン製法」を現代に蘇らせ、6年から10年育成させたブルーアガベをじっくりと加熱することで、甘さと香り、そして特有のスモーキーさを自然に引き出す製法を採用。テキーラでは通常「蒸す」ことで熱するのだが、火山岩と薪を使って加熱されたアガベは、古来のメスカル製法「焼く」ことで火入れを行っている。さらに、クラセアスールがこの28年間で培った酵母を用いて発酵させ、二度にわたって銅製の蒸留器で蒸留。伝統と革新の両面が緻密に融合されている。ブランドが28年かけてきた進化を「どう表すのか」を体現した新商品と言えそうだ。
語るデキャンタ・ボトル
クラセアスールが他ブランドと一線を画すもう一つの要素は、アートピースともいえるボトルデザイン。新作「ブランコアウマード」では、スモークが立ちのぼる様を表現した半透明ガラスと、火山岩の質感を再現したセラミックベース、銅色のキャップとエンブレムが重層的に語りかけてくる。「スモーキーな白」という名を持つ新製品の姿を表現している。
これらは単なる装飾ではなく、蒸留器へのオマージュであり、製造に使われる「火」そのものの象徴だ。すべてのデキャンタはメキシコの職人による手作業で作られ、見た目の美しさとともに、持つ人に製造のストーリーを伝える役割を果たしている。またデキャンタを包むボックスまでも、古来の製法とブランドの情熱を表した炎がモチーフとなっている。
クラセアスールは、テキーラの新しい潮流を作ると同時に、メキシコの伝統工芸を守る使命も果たしている。そのデキャンタを制作する多くの職人たちは、現地の女性たちで構成されており、地域コミュニティの経済基盤の一翼を担っている点も見逃せない。
クラセアスールは24年7月には、恵比寿に直営店「ラ・ティエラ」をオープン。ただの販売拠点に留まらない「体験型ブティック」として機能している。テイスティングルームや限定商品、メキシコのアートとのコラボレーション展示など、ブランド世界観を五感で味わえる場を提供している。
テキーラという枠を超え、クラフトマンシップ、アート、ストーリーテリングを融合させたクラセアスール。そこに込められたスモーキーな香りは、ただの風味ではなく、記憶と情熱、そして文化の火種なのかもしれない。

試飲会後、氏は私に感想を訊ねて来た。「スモーキーさもあることなら、唯一無二の味」と返答すると、とても満足そうな満面の笑みが返って来た。「メキシコの文化を伝えながらも、社員がより良い人間になっていくのがミッション」と公言する氏の素顔が垣間見えた気がした。
文・たまさぶろ
BAR評論家、エッセイスト
立教大学文学部英米文学科卒。『週刊宝石』、『FMステーション』など雑誌編集者を経て渡米。ニューヨーク大学にてジャーナリズム、創作を学ぶ。帰国後、月刊『PLAYBOY』、『男の隠れ家』などへBARの記事を寄稿。2010年、東京書籍より『【東京】ゆとりを愉しむ至福のBAR』を上梓し、BAR評論家に。これまでに訪れたバーは日本だけで1500軒超。他に女性バーテンダー讃歌・書籍『麗しきバーテンダーたち』、米同時多発テロ事件以前のニューヨークを題材としたエッセイ『My Lost New York』など。