2016.05.19 Thu
ビジネスクラスの美味いワインは、
いかにして選ばれるのか
【デルタ航空編】その1
たまさぶろ 元CNN 、BAR評論家、エッセイスト仕事で飛行機に乗る際はビジネスクラスだが、プライベートではいつもエコノミークラス…という典型的な貧乏人の私が、もっとも気になっているクラスにおける差は、余裕のあるシートやひと工夫された食事もさることながら、そのワインの品ぞろえについてだ。
食事について日々、口にしたものを日記に(決してブログではない)ひと言だけ書き止めているため、仕事で海外に出るたびに多くのワインの銘柄が書き加えられ、日記のページ数が埋め尽くされる。
久々に米国ワシントン州シアトルに飛ぶにあたり、手配された飛行機はデルタ航空の直行便。同州は最近、ワイナリーも充実していると聞くので「一軒ぐらいは立ち寄れないものかな…」とおぼろげながら考えていたせいか、いつもより、よりワインのラインナップが気になった(お酒が気になるのはいつものことだが…)。
エコノミークラスに乗る際は、ジントニックかビールからスタートするが、ビジネスに忍び込んだら、まずはシャンパンに限る。この日のスターターは「ジャカール・ブリュット・モザイク」。最高級限定シャンパンとは呼べないが、こうした機会にサーブされるひと品は、日頃は自身が目に留めない銘柄に出会えたりするケースが多いので嬉しい。
「観たいな…」と思っていた映画を、日常の些末事に月日が過ぎ去り、観逃してしまう。ところが、飛行機に乗りエンタメ・サービスでその映画作品を見つけ、「なぜこれまでに観なかったのか…」と涙しながら繰り返し視聴してしまう…そんな感覚に似ている。私にとって今回のシャンパン、ジャカールがまさにそんな一杯。よし、ジャカールをお代わり。
ジャカールは、60もの村を集めた生産者協同組合によるフラッグシップ・ブランド。シャンパーニュ地方でも2400ヘクタールをカバーするメジャー処。それだけ広範囲にわたる味覚をカバーするだけに「モザイクのような味わい」が愉しめる。確認するとノンヴィンテージでも15カ月以上の貯蔵。シャルドネ35-40%、ピノ・ノワール30%-35%、ピノ・ムニエ25-30%というバランスの取れた構成になっている。フルーティな味わいは、洋ナシやオレンジを感じさせ…いや、止めておこう。テイスティング・ノートは私の専門外だ。要は、見目も麗しい黄金がかった典型的なシャンパン、どんな食事にも合う。こうした素晴らしい出会いは旅の醍醐味に数えたい。
シアトルに向かっていたので「ワシントン州のワインはないのか」と駄々をこねるものの、デルタ航空ほどワールドワイドにカバーしている航空会社が、行先、便毎に品ぞろえにバリエーションを持たすのは、やはり難しい。
お次は、イタリアはヴェネトの「カ・ディ・ラホ・ピノ・グリージオ・マルカトレビジアーノ2014」。日本でもポピュラーなピノ・グリージオ種ながら日本語の表記が不明なので、筆者の推察のままで恐縮。100%ピノ・グリージオ。シトラス系、アプリコットの香りなどが食前酒にぴったり。カ・ディ・ラホは小さな作り手らしく、日本では入手しにくいひと品かもしれない。
ここでタラゴン風味のグリーンピース・スープも平らげたので、メインにはラムチョップのローストを選ぶ。やはり赤ワインをお願いしないとならない。
迷った挙句、オーストラリアの「アンドリュー・ピース・シラーズ・バロッサ・ヴァリー2014」。アンドリュー・ピースもポピュラーなワイナリーだが、日本語表記が見つからないのでこのままで。私自身「ラムチョップ=オースラリア」という単純な刷り込みがあるせいではないと思うが、スパイシーなこのシラーズとラムの調和に大満足。
ま、でも、この際…とボルドーの赤もお願いする。「シャトー・ド・シャントグリーヴ」は、エール・フランス航空でもビジネスクラスで出しているというボルドーのスタンダード。特にこの「クラーヴ 2011」はメルロー、カベルネソヴィニオンのバランスが優れた品だろう。
食事が終わるとスコッチを喰らって終わり…というのが常だが、ここまで制覇したので、デザートワインとポートも試そう。
イタリア・ピエモンテの「バンフィ・ブラケット・ダックウイ・ローザ・レガレ」。こちらも表記不明で恐縮。ローズとラズベリーの豊かな味覚が…と心の中で叫んでいると、CAにチョコレートを差し出される。うむ、パーフェクト・タイミング。
「フェレイラ・ドナ・アントニア・トニーポート2011」はもちろんポルトガル。同社はアメリカの「ワイン&スピリッツ マガジン」により「2012プロデューサー・オブ・ザ・イヤー」を獲得。ルビー色のコンポート・フルーツの香りに、そのまま夢心地に引きづり込まれた。
さて、最後はスコッチの代わりに、バーボンのロックを選ぶ。バーボンは、ケンタッキー州最古の蒸溜所ウッドフォードの逸品、ウッドフォード・リザーブ。蒸溜所のマスターディスティラーが苦心したスモールバッチのバーボンは、BAR評論家にとって締めの一杯に最適。大満足。あとは時差ぼけ対策のために、全力で眠りに落ちるだけだ…。
ここまでは長い余談だ。ほぼ私の日記に書き止めてあるメモの例。本題は、こうしたラインナップを航空会社では、いったいどう決めているのかだ。
※ワイン通の方々、つたないワイン評については、無視してもらいたい。恐縮。
元CNN 、BAR評論家、エッセイスト
立教大学文学部英米文学科卒。週刊誌、音楽雑誌編集者などを経て渡米。ニューヨーク大学にてジャーナリズム、創作を学ぶ。CNN本社にてChief Director of Sportsとして勤務。帰国後、毎日新聞とマイクロソフトの協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」をプロデュース。日本で初めて既存メディアとウェブメディアの融合を成功させる。これまでに訪れたバーは日本だけで1000軒超。2015年6月、女性バーテンダー讃歌・書籍『麗しきバーテンダーたち』上梓。米同時多発テロ事件以前のニューヨークを題材としたエッセイ『My Lost New York』、2016年1月発売予定。
https://twitter.com/tamasaburau
https://www.facebook.com/tamasaburau1
official site たまさぶろの人生遊記
http://www.mag2.com/m/0001604971.html
『麗しきバーテンダーたち』のご購入はこちら
『My Lost New York』のご紹介はこちら