2016.05.20 Fri
ビジネスクラスの美味いワインは、
いかにして選ばれるのか
【デルタ航空編】その2
たまさぶろ 元CNN 、BAR評論家、エッセイストビジネスクラスの美味いワインは、いかにして選ばれるのか【デルタ航空編】その1
以前、某日系航空会社に訊ねたところ定型文の回答があり、記事にならなかった経緯がある。しかし今回、デルタ航空に問い合わせると、広報部が応じてくれた。
そのマスター・ソムリエが年に一度「空の旅」に合う品々を2000種類以上のワインをテイスティングして選ぶ。私はてっきり、2000種類の中から100程度にしぼり、その中からその時々のフライトにより積まれているワインが異なるのかと思い込んでいた。しかし、実際は2000種類の中から旬を取り入れた季節の食事に合うシャンパン一種類、ワインは全20種類程度を選定。さらに、地域別・季節別に赤白二種類ずつ、デザートワインとポート・ワインをそれぞれ一種類ずつ選び抜くのだそうだ。
ロビンソン氏がデルタ航空のマスター・ソムリエとなったのは2008年のこと。以来、毎年2000種類のワインを地上でテイスティングするととも、飛行高度によっていかにワインの味が変わるかを検証するため、機上でも同じ2000種類をテイスティング。機上でも確かな味を保つことができる一本を選出し続けている。ロビンソン氏によると「いいワインでも3000フィートの上空になると、その特徴を失うこともある」とのこと。最終候補の中から、実際に機上で味わうワインを選び出すのは「苦痛でさえある」と言う。「グレートなワインはもっともっとたくさんあるからだ」とか。
ロビンソン氏は大学卒業後、モーガン・スタンレーに勤務。しかし、ある日、もっとも有名なシャンパン・ブランドのひとつ「クリュッグ」のテイスティングに参加。翌日、モーガン・スタンレーを辞め、1990年からヨーロッパを旅し、ワインを学んだ…というバイタリティ溢れるキャリアの持ち主。
その後、アメリカに戻り、2001年9月11日の米同時多発テロで崩壊したワールド・トレード・センターの最上階にあったレストラン「ワールド・オブ・ウインドウズ」でワイン部門を担当。ソムリエとしてのキャリアをスタートさせた。弊著『My Lost New York ~BAR評論家がつづる9・11前夜と現在』にも記しているが、「ワールド・オブ・ウインドウズ」は、私がNY在住中、もっとも足を運んだレストランのひとつ。しかも時期がちょうど重なる。ひょっとすると私がワインを選んだ際、彼女と会話さえしていた可能性がある。
ロビンソン氏は現在、カリフォルニア州ナパ・ヴァレーにお住まいとのことで、直接インタビューするなどの機会はもらえなかったが、彼女からこんなコメントが寄せられている。「(デルタ航空で愉しむことができるワインのラインナップは)クラシックな味わいを持つもの、最新の現代的な味わいを持つものの両方をセレクトしました。そして、どれも地上でも機上でも変わらぬ味を持ち合わせるエクセレントな出来です。ぜひ愉しんでください」と。
いや、確かに酔っ払いとして十二分に愉しませてもらった。
ビジネスクラスに機載されている秀逸なワインを選ぶ作業とはどんなものか…常々おぼろげながら考えていたものの、2000種類ものワインを地上と機上でテイスティングしその差異を吟味し選定、絞り込むなど、素人からすると当方もない作業だ。道理で機上で呑むワインが、いつにも増して美味いわけだ。
長年抱いていた疑問がひとつ解けただけに、今回の出張、ひとつ得をした気分になった。
元CNN 、BAR評論家、エッセイスト
立教大学文学部英米文学科卒。週刊誌、音楽雑誌編集者などを経て渡米。ニューヨーク大学にてジャーナリズム、創作を学ぶ。CNN本社にてChief Director of Sportsとして勤務。帰国後、毎日新聞とマイクロソフトの協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」をプロデュース。日本で初めて既存メディアとウェブメディアの融合を成功させる。これまでに訪れたバーは日本だけで1000軒超。2015年6月、女性バーテンダー讃歌・書籍『麗しきバーテンダーたち』上梓。米同時多発テロ事件以前のニューヨークを題材としたエッセイ『My Lost New York』、2016年1月発売予定。
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