2016.06.21 Tue
悠久の時を越え再生したウイスキーウルフバーン
第五回 バーでこそ飲みたいウイスキーBAR TIMES 編集部
こよなくバーを愛するバーファンのみなさまに、バータイムズ編集部がとっておきのウイスキーをご紹介する編集企画『バーでこそ飲みたいウイスキー』。ウイスキーは香りや味わいだけでなく、蒸溜所の風土や歴史、樽や仕込み水へのこだわり、スチルや蒸溜方法の個性、バッティングの技術など、様々なストーリーを知ることでより深く愉しむことができます。ぜひバーでこそ、そんなウイスキーの味わい深い世界をお愉しみください。
スコットランド本島北端の街サーソーに実在したウルフバーン蒸溜所。1821年に創業し、1877年には廃墟として記録に残されている非常に短命だったウルフバーンの名を受け継いだ蒸溜所が再生したのは、2011年のことでした。
最初の1滴が誕生した2013年から3年。ついにスコットランド本島最北端のウイスキーが日本へ上陸。
「NO AUTOMATION」と最高責任者アンドリュー・トンプソンは言います。可能な限り人の手で。それは、かつて全ての蒸溜所がそうであったように、昔ながらの手作業と、先人達から受け継がれてきた伝統を重んじる職人たちのこだわり。五回目である今回は、悠久の時を越え再生したウイスキー『ウルフバーン』をご紹介します。
2011年5月、我々はケイスネス州サーソーにある、150年前の旧ウルフバーン蒸留所の跡地を訪ねました。かろうじて、そこに建築物があったことが分かる瓦礫。
そして水、かつてウルフバーン蒸留所で使用され、我々がウイスキーを造ることができる可能性を示してくれる川が流れていました。我々は、古い蒸留所跡地から少し下流に、まるでアザミのカーペットのような平地を見つけました。ここは川から毎日少量の水を汲むだけで、すぐに再びウイスキーを造ることができます。2012年5月に土地を購入し、8月上旬には最初の建設工事を着工しました。すぐに計画は進められ、9月には蒸留所建設への基礎が完了しました。
建設はフォーサイス社によって、バルブやポンプに至るまで全て綿密な作業の下で行われ、徐々に近づく冬の前に完成できるよう建設を進めてきました。
閉鎖されたキャパドニック蒸留所の発酵槽2基も導入しました。これらはウルフバーン蒸留所の新しいスピリットを造るための水のタンクとして使用されます。
11月には設備の搬入と組み立てが始まり、ウイスキーの中心地スペイサイドからハイランドの北端の大地へ、新たなポットスティルが運ばれました。完成を迎えた季節は、もうすぐクリスマスを迎えようとする冬の長い夜が訪れる頃でした。
そして年が明け、2013年1月25日。
新ウルフバーン蒸留所の最初の1滴が流れました。
ケイスネス州は、その豊かな水と大自然で知られています。周囲約4,000?にも及ぶ、広大な湿地帯と泥炭層があり、現在スコットランドに残る最後の原野とも言えるでしょう。
ウルフバーン川は、古くから湿地帯を流れる川で、海からほんの数マイルの距離を流れています。(バーンは川を意味します)
あまり知られていませんが、かつて野生のオオカミが多く生息していて、1500年代には一般的な動物でしたが、1600年代に入ってからは、乱獲によって絶滅してしまいました。
WOLFBURNの歴史は断片的な資料しか残されていません。
1821年にウィリアム・スミス社が認可を受け、以後、1852年まで代々スミス家によって操業されてきました。蒸溜所名のWOLFBURNの綴りも幾つか存在し、”Wolfburn”、”Wolf Barn”、”Wolf Burn”、”Wulf Burn”などがありました。
19世紀初頭の納税記録では、WOLFBURN蒸溜所の最盛期にはケイスネス州最大の蒸溜所だったことが窺えますが、その後、1877年の測量では廃墟として記されていることから、約50年の短い操業だったようです。