2017.07.31 Mon
トップバーテンダーが感じた「パーフェクト・カクテル」浅倉 淳さんに聞く
BAR TIMES STORE441ページの圧倒的なボリュームで最先端カクテルの作成ノウハウが紹介されている「パーフェクト・カクテル 〜ニューヨーク最先端バーのスーパーテクニック〜」。この学術書のように論理的で美術書のように美しいカクテルの専門書をトップバーテンダーはどのように読み解くのか。BAR TIMES編集部は日本を代表する5人のバーテンダーに本書についての率直な感想をお聞きすることにしました。
最終回は、バーアンセムの浅倉 淳さんにお話を伺いました。
著者は、ニューヨークのバー『 ブッカー・アンド・ダックス 』のオーナー・バーテンダーであり、ブルックリンにある食のミュージアム 『MOFAD』の創設者で、フード・サイエンスについての作家でもある、デイヴ・アーノルド氏。
本書を読み終わった後に伝わってくるのは筆者のカクテルへの徹底した探究心。一つの方法にこだわらず、高価な道具をつかい難易度の高い方法も、コストを重視したシンプルな方法も提案されており、実に幅広く、丁寧に解説されている。そして、本書のあとがきの謝辞や、自分のバーに子供の名前をつけたエピソードからもわかる様にデイヴ・アーノルド氏の愛と優しい人柄が本書には溢れている。この愛と優しさが冒頭の1行目にもあるとおり「解決策を必要としている世のバーテンダー」にもそそがれているのはもちろんである。
著者のカクテルへのアプローチは実にユニークだ。1部・2部では、糖度や酸度、温度、時間、熱力学など、あらゆる視点からカクテルを縦横無尽に分析し、データに基づいた著者の解釈が丹念に書かれている。こうしたカクテルの分析や作り方の追求からは、1つのカクテルの実像や制作する上での方向性が浮かび上がってくる。
3部では、ニトロマドリング、レッドホット・ポーカー、真空インフュージョンなど、聞き慣れない言葉も出てくるが、細部までの丁寧な記述と豊富に掲載されている写真で、著者が読者に伝えようとする技法やカクテルのイメージが容易に理解が出来る様になっている。
4部では、リンゴという1つの素材に対し、選別から、成分の解説、ジュースにする際の技法とそこから産まれたリンゴ・ジュースを使用したカクテル・レシピの解説。著者のいうコンセプト・アイデア・目標・製作過程と1つのカクテルが完成に到達するまでの過程が懇切丁寧に描かれている。そして、最終章では17ページものジン・トニックに関する著者のカクテル理論が展開され、この大作は幕を閉じる。
科学的データだけで、個人の味覚や、飲む時のシチュエーション等を考慮せず嗜好品であるカクテルの答えを1つだとしてしまうのは横暴だが、こうした情報をバーテンダーとしての知識の蓄積に加えない手はない。
エル・ブジの登場以降、料理の調理技法や作品の発想法を取り入れながら多様化してきたカクテルの歴史と未来に、これからバーテンダーがどの様に向きあい、つきつめていくかに考えを巡らせる上では欠かせない1冊だ。
浅倉 淳
第31回全国バーテンダー競技大会で総合優勝。
2009年 東京・銀座に「バー アンセム」をオープン。
ニューヨークでハイテク・バーを営むカリスマ・バーテンダーが、最先端のカクテル作成ノウハウを惜しみなく公開した「パーフェクト・カクテル 〜ニューヨーク最先端バーのスーパーテクニック〜」が楽工社より発刊されました。ページ数/441P、レシピ/120点、カラー写真/450点のボリューム。
単行本: 441ページ / 著者:デイブ・アーノルド / 日本語版監修者:岸 久 / 翻訳者:二階堂 行彦 / 出版社: 楽工社 / 発売日: 2016年6月