2019.03.19 Tue
ニュージーランドで作るSAKE「全黒」の挑戦マヌカの櫂棒で独自の味を
週刊ホテルレストラン【酒のSP】今や日本酒は世界中で造られる時代になった。米国、英国、メキシコなど世界中に、毎年酒蔵が誕生している。2015 年に誕生したNEW ZEALANDSAKE BREWERS LIMITED は、ニュージーランドで唯一の酒蔵で、「全黒」という酒の製造販売を行なっており、この3 年間でニュージーランドをはじめとする12 の販売所で販売するようになったほか、45 のレストランで楽しめるまでに成長した。そして今年のラグビーワールドカップに先駆け、日本での販売、提供を開始。「全黒」の酒造りへのこだわりや経緯を、共同創業者の河村祥宏氏とデイビッド・ジョール氏に話を聞いた。
日本とニュージーランドの架け橋になる
── お酒造りのきっかけは?
デイビット(以下DJ) 私はニュージーランドのクイーンズタウンに住み、山岳ガイドなどをしていたのですが、実は16 歳から日本に留学していて、いくつか仕事をした末に、河村さんのご実家の不動産業に勤めていました。日本にいたころから日本酒への興味関心が強く、ニュージーランドでも日本酒が造れないかと思い、河村さんに相談したことがきっかけです。
河村 民主党政権時代の國酒プロジェクトの資料にニュージーランド在住の友人が関わっていたこともあり、酒造りの杜氏の平均年齢が70 歳を超えているなど日本酒業界の現状を聞いていました。このままでは日本の伝統文化である日本酒が廃れてしまうことに危機感を感じたのです。また、ニュージーランドのワイナリーには日本酒造りに興味を持つ醸造家も多かったので、日本酒を造ることにあまり抵抗は感じることもなく、私が住んでいるクライストチャーチのきれいな水を生かした日本酒造りにたどり着きました。最初は、真逆の四季を持つニュージーランドと日本で酒造りをしたら年間を通して生産ができるなどと考えていましたが、体力的にもそれはなかなか難しいということも、よく分かりました(笑)。
DJ 日本人の妻や、パートナーたちにも賛同してもらいましたが、最初から自分たちだけではできないので、茨城県の吉久保酒造と、カナダの酒蔵のYK3で修行をすることになりました。学べば学ぶほど、日本酒造りの面白さ、奥深さに心酔していきました。若いころ日本に来たときから、文化との結びつきも含めて「日本酒は日本のトレジャーだ」と感じていたことを今でも思い出します。
切っても切り離せないラグビー
「全黒」の名前は自然に湧いてきた
── 全黒の名前の由来は?
河村 候補はたくさんありました。ニュージーランドとラグビーは切り離せない関係ですから、ラグビーを見ながら決めました。
前回のワールドカップの際にニュージーランドの優勝を目の当たりにして、今回の日本開催のワールドカップでは我々は何ができるのかと考え、ニュージーランドで造る日本酒でこのワールドカップを、そして日本を応援したいと思っています。
DJ 現在「全黒」は、ほぼすべて手造りですので生産はまだまだ少量です。
特徴としてはもろみを混ぜる櫂かいぼう棒をニュージーランド原産のマヌカの木から作り、酒造りの約1カ月間は挿しっぱなしにし、その櫂棒から出るビタミンでエッセンスを加えています。
ただ、今回来日して神奈川の熊澤酒造と、福岡の寒北斗酒造と弊社の3 社コラボでの「全黒」を造っています。ラベルをラグビーボール型にしたり、ワールドカップ開催中にイベントなどを開催して、より「全黒」を日本に広めて、ニュージーランドと日本の架け橋になりたいです。
ないものだらけからの酒造り
── 酒造りで苦労されたことは?
DJ まずは酒米がない、精米機もない、酵母も取り寄せられない。
なにより情報がないなど、とにかくないことだらけでした。
ただ、水や空気、環境は最高だと信じていました。精米された酒米を取り寄せることができるようになり、協会酵母も取得できたことから酒質は飛躍的に高まりました。
── どんな人に飲んでもらいたいですか?
DJ まずは地元のニュージーランドの人たち。
小さなマーケットですが少しずつ人気が出てきていています。
ニュージーランドでの日本酒消費を伸ばすためには、和食だけではなく、西洋やニュージーランド料理にも合わせていけるようにしないといけません。それから、当然ですが日本人に認められたい。
また、ロンドンのレストランなどとはすでに取引をさせていただいていますが、ディストリビューターなど現地の方に任せっきりになるのではなく、自分たちが売り先まできちんと把握したいと思っています。
小さな規模である我々だからできることを追求し、今後もより酒質を向上させ、「全黒」をブランドとして確立させていきたいのです。
New Zealand Sake Brewers Limited URL= http://zenkuro.co.nz