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バーをこよなく愛すバーファンのための WEB マガジン

2020.10.17 Sat

『NARITA ITTETSU to the BAR』完全改訂版発売記念バー5517〈東京〉

Office Ittetsu & BAR TIMES

バーの魅力を切り絵というモノクロームで表現した切り絵作家、成田一徹氏。彼の作品は、多くのファンを魅了し、圧倒的な支持を集めました。そんな成田氏の作品が248点収録された書籍『NARITA ITTETSU to the BAR』。2014年に発行され、現在では絶版となってしまいましたが、完全改訂版としてBAR TIMESが再版することとなりました。BAR TIMES LABでは、先行予約特典として特別価格にて数量限定でご提供いたします。

本ページでは、『NARITA ITTETSU to the BAR』に収録されている作品から、毎回1点をご紹介します。第三回は、バー5517〈東京〉です。


バー5517〈東京〉2001年

銀座の名バーの1軒。店名の「5517」は住所の「5丁目5-17」に由来する。一徹は、チーフ・バーテンダー稲田春夫さんの実直で柔和な人柄が好きで、折りに触れて店にお邪魔したが、意外なことに、店内を絵にしたのはこの一度くらい。マスター自身の人物像は別途、雑誌「Whisky Voice」の連載で一度取り上げている。銀座のバー業界の最長老として慕われ、85歳まで現役を貫いたが、2013年11月に他界。
(神戸新聞総合出版センター「NARITA ITTETSU to the BAR」より転載)


銀座五丁目並木通り、三笠会館の地下。左手に緩やかな曲線を描くバーカウンター、奥のほの暗い空間には十卓程のテーブルがスポットライトに浮かびあがっている。
普段はテーブル席を広くとったバーにはあまり足が向かない。一人のときが多いし、どちらかというとバーテンダーに適度にかまってほしい方(タイプ)である。それには広からず狭からず、バーテンダーの目が届く適度なスペース、できればカウンターだけの店がいい。
「BAR5517」のお目当てはチーフバーテンダーの稲田春夫さんである。満席になれば六十人近くが入るという、ともすれば散漫でとりとめのないムードになりがちなこの広いスペースをキリリと引き締めているのは、カウンターの中にいる稲田さんという気がする。
その風貌と存在感から厳しそうな印象を受けるが、優しい人である。ただ二十三歳で北海道から単身上京、戦後の銀座の酒場史を体現してきた人である。印象通り厳しい一面も持っている。それは若い人にケジメの大切さを諭す極くまっ当な厳しさと、一方ボトルキープとカラオケ全盛期、何かがおかしいと感じて店を閉じた、そんな職業人としての自分への厳しさである。
現在七十七歳、勤めのバーテンダーとしては最高齢の一人だろう。オリジナルカクテル「5517」をお願いすると、稲田さんは苦味走った表情で軽やかなシェーキングを見せてくれた。
(朝日新聞社「TO THE BAR 日本のBAR 74選」より抜粋)



月刊「清流」より@上田佑勢

成田 一徹 (なりた いってつ)


1949年神戸生まれ。サラリーマン生活のかたわら切り絵に目覚め、88年に上京。切り絵作家として独立した。BARの空間をモチーフにしたモノクロームの切り絵をライフワークとしつつ、新聞、雑誌、書籍を中心に、街の風景や市井に暮らす人々、職人の仕事や生き様など多彩なテーマで作品を発表した。エッセイストとしても、軽妙で味わい深い文書にファンも多く、各地で個展、グループ展を多数開催した。講談社フェーマススクールズ・インストラクターも長くつとめた。2012年10月、脳出血で急逝。

著書に『to the Bar 日本のBAR 74選』 (朝日新聞社)『カウンターの中から』(クリエテ関西)『東京シルエット』(創森社)『The Cigger Story-葉巻をめぐる偉人伝-』 (集英社)『成田一徹の切り絵入門』 (誠文堂新光社)『あの店に会いに行く』(中央公論社)『神戸の残り香』 『新・神戸の残り香』(神戸新聞総合出版センター)『NARITA ITTETSU to the BAR』(神戸新聞総合出版センター)など多数。


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