2022.08.12 Fri
ブッシュミルズ ブランドアンバサダー就任記念インタビュー10年、12年、16年、21年のシングルモルトを“垂直テイスティング”できる愉しみがある
大場 健志さん(bar cacoi/銀座)「いいものだから歴史が積み重なった」。
その事実こそが強み
大場 健志さんインタビュー②
ブッシュミルズにどのような印象を持っていますか?
僕が独立した2006年頃にはすでにアイリッシュウイスキーとして確固たる地位を築いていました。とくに強い印象を持ったのは、2008年頃にリリースされた400周年記念ボトルの香りと味わいの深さです。すごく華やかで、きっとバーテンダーなら誰もが好きな南国のフルーツを思わせるようなフレーバーでした。よくお酒の教科書では、アイリッシュウイスキーの特徴として、『3回蒸溜による軽やかさ』といった点が挙げられていますが、『軽やかなだけではなく華やかなんだ』と強く感じました。
まずは、400年以上にわたって、シングルモルトウイスキーだけを造り続けていること。唯一無二の歴史と伝統は、ほかの何にも代えがたい強みであり、魅力だと思います。蒸溜所の所長が、「WE’RE NOT THE BEST BECAUSE WE’RE THE OLDEST, WE’RE THE OLDEST BECAUSE WE’RE THE BEST」とおっしゃっています。「古いからいい、というわけではなく、クオリティが高いから400年以上の歴史が維持できた」というその言葉に造り手のプライドと誇りを感じます。ノンピート麦芽のみを使ったアイルランド伝統の3回蒸溜によるエレガントでスムースな味わいに加えて、熟成年数と樽の違いによる香りや味わいの設計図の違いがすばらしいと思います。それを“垂直テイスティング”で飲み比べる愉しさがありますね。
“垂直テイスティング”とは?
ブッシュミルズのシングルモルトは、10年から12年、16年があり、さらに21年までラインナップしています。それを年数違いで飲み比べることです。世界的なウイスキーブームで、スコッチにおいてもバランスが12年を始め、熟成年数の長いものは入手困難になってきています。そういった意味でもこれだけのラインナップが揃うのは貴重。レンジごとにブッシュミルズの共通点があり、異なる樽で寝かせた違いもある。アイリッシュウイスキーというと、熟成年数が少なくライトなタイプにフォーカスされがちですが、ブッシュミルズのレンジの幅にシングルモルトとしての魅力を感じます。
具体的に、熟成年数による香りや味わいの特徴を教えてください。
シングルモルト10年は、バニラやハチミツ、熟したフルーツのようなアロマが感じられます。弊店では、氷無しのハイボールで提供してとても好評をいただいています。蒸溜所の"顔"ともいえるシングルモルト12年は、シェリー樽や後熟に使われたマルサラ樽由来のレーズンのようのドライフルーツのニュアンスがありますね。ほどよいリッチさと、アイリッシュウイスキーらしいスムースさ。ストレートはもちろん、ウイスキーカクテルにするととてもエレガントな味わいに仕上がります。
シングルモルト16年は、オロロソシェリー樽や後熟にポートワイン樽が使われていて、リッチなフルーツ感が広がります。矛盾するようですが、しっかりとした熟成感があるのに、驚くほどフレッシュで上品。とてもエレガントなバランスが魅力的です。最長熟成を誇るシングルモルト21年は、完熟のトロピカルフルーツを思わせる甘いジューシーな香りと長く複雑な味わいが広がります。グラスの中で、万華鏡のように香りと味わいがくるくる変化していきます。ストレートでゆっくりと愉しみたい特別感があります。スペイサイドやハイランドの華やかなスコッチウイスキーが好きな方にも楽しんでもらえると思います。「アイルランド」とカテゴライズせずとも、「上質なシングルモルト」としてお薦めできる一杯ですね。
大場 健志(おおば たけし)
銀座「bar cacoi」オーナーバーテンダー。1976年生まれ。都内のバーで経験を積み、2006年独立。店名は茶室を意味する。“クラフトとヴィンテージ”をテーマに、扱うお酒や器、フルーツを選び、素材のよさが伝わるカクテルを提供。和酒や醸造酒、“一風変わったお酒”も揃え、お茶を使ったカクテルも得意。2019年「トークン・ビターズ カクテルコンテスト」優勝。