1900.06.1 Fri
メーカーズマーク46 スペシャル対談(前編)_コピー 「インナーステーブ」の秘密に迫る
宮崎優子(BAR Tenderly)× 伊藤学(Mixology Heritage)
最初にお二人が感じる「メーカーズマーク46」の味わいについて教えてください。
宮崎 「メーカーズマーク」は、私がバーテンダーになりたての31、32年前に初めて飲んで、 世の中にこんなに柔らかくておいしいバーボンがあるのか、と感動した銘柄です。当時は毎晩飲んでいました(笑)。好きなバーボンのひとつですね。
この「メーカーズマーク46」は、バニラやメープルのウッディさと、スイートポテトを連想させるぐらいの柔らかい甘さがあります。甘いだけではなく重厚感も。かすかにベリーのフレーバーも感じますね。
伊藤 僕は、上京したてのまだバーテンダーになる前に訪ねたバーで初めて飲んで、こんなにクリーミーでまろやかなバーボンがあるんだと驚きました。ボトルの封蝋からしてかっこよくて。オールドタイプの方はさらに厚みがあってどう飲んでもおいしいと感じました。その後、どのバーでも見かけるくらい広まっていきました。誰が飲んでもおいしい完璧なものをつくろう、という思いがきちんと反映していて、いつの時代も飲み飽きない銘柄がメーカーズマークだと思います。
「メーカーズマーク46」は、宮崎さんがおっしゃったように、フィニッシュにベリーを感じますね。キャラメルというよりはメープルの香りが強く感じられ、スタンダードより厚みのある味わいで、オレンジの香りもすごくバランスがいいですね。
「メーカーズマーク46」は、バーボン樽で最低6年の熟成を経た原酒に、焦がしたフレンチオークの板を10枚沈めてさらに熟成する独自製法「インナーステーブ」で仕上げています。これは、味わいにどのような変化をもたらしていると感じますか。
伊藤 圧倒的に味に厚みと奥行きが出てきますね。フレンチオークを焼いた香りが独創的で、口の中で薄い味わいから濃い味わいへと香ばしさが順々に層になって広がっていく。もともと飲んでいた「メーカーズマーク」はエレガントできれいなお嬢様、という印象でしたが、「メーカーズマーク46」は、そのお嬢様がキリッと力強いレディになった印象。甘さとビター感がプラスされ、立体感も出ています。トーストの加減の異なるフレンチオークの板を入れただけで、なぜこの味のバランスにできるのかが不思議なぐらい。芳しい「ロースト感」と焦げを感じる「ビター感」のギリギリのところを攻めている感じがします。
宮崎 ほんとに。この重厚な味わいに持っていけていることがすごいですね。ストレートにロック、カクテルにしてもどうやって飲んでもおいしい。圧倒的な包容力があります。トースト具合もそれぞれ異なるであろう板を目利きして、約3ケ月浸けて、狙った味に仕上げていくには相当の苦労があったのではないでしょうか。味わい、飲みごたえに風格があるのにやっぱり後味は柔らかで、私は好きですね。バーボンに求めている味は、甘さだけでも柔らかさだけでもなく、力強さも欲しい。それが備わっています。定番よりアルコール度数が2%高いのに、ツンとくるアルコール感はなく、むしろ穏やかに感じられますし、熟成感、安定感、重厚感は増しているのにエレガントさを失っていないんですね。
熟練の技で仕上げられた原酒に「インナーステーブ」と呼ばれる特別な焦がしを施したフレンチオークの板を10枚沈めて、さらに数ヵ月後熟します。この期間がもたらす、より深いウィディネス、甘いキャラメルのアロマと、複雑でリッチな風味、長くスムーズな余韻がとりわけ魅力的な味わいをつくり出します。創業者のビル・サミュエルズ・シニアとマージー・サミュエルズの息子、ビル・サミュエルズ・ジュニアの発案によって生み出された「メーカーズマーク46」だけの特別な製造工程です。
お二人とも唯一無二のプライベートボトルを造れる「メーカーズマーク プライベートセレクション」として、樽材や焼き具合の異なる板を選ぶ体験をされたそうですが、感想を教えていただけますか。
宮崎 まず焦がし具体の異なる板1種類のみを漬け込んだサンプルをテイスティングさせてもらいました。全5種類ありますが、それぞれでまるで違います。板を選ぶバランスをイメージするのは本当に技術と経験値が必要だと感じました。私は、宇都宮のバー「山野井」の山野井有三さんと一緒に選ばせていただきました。年代が近く、“往年のメーカーズマークのVIP”を目指そう、と意見が一致しました。そう、私が毎晩飲んでいた(笑)。数カ月後、できあがったものをテイスティングしてみると、目指した方向に近いものができました。でも、製品の「メーカーズマーク46」は板の選択肢の幅が圧倒的に多いわけですから、レベルが違うなとも感じましたね。
伊藤 宮崎さんの選んだ板を訊いてびっくりして。わりと香ばしいどっしりした焦がし具合の板を10枚のうちの5枚選んでらっしゃって、製品で使われている「46」は1枚も選んでいない。攻めてらっしゃるなぁと(笑)。僕は、10枚のうちの5枚は「46」を選び、残りはスパイス感が感じられるものや焦がし具体の異なるものを、バランスを考えて選びました。実際にやってみると、すごく悩みますね。僕は「メーカーズマーク ゴールドトップ」が好きだったので、いかに柔らかくふくよかなものを創るかを目指しました。ただ甘く、キャラメル感やメープル感を感じるだけでなく、ふくよかさをどう出すか。そのためにバランスをすごく考えましたね。自分が体験したものはまだ完成待ちで、ブレンドしたものをその場で味見しただけです。「46」を軸にしたことで、指針としてすごく助かりました。体験したからこそ、製品版の「メーカーズマーク46」の完成度の高さを感じます。
メーカーズマーク ブランド公式サイト
https://www.suntory.co.jp/whisky/makersmark/
宮崎 優子(みやざき・ゆうこ)
大森「BAR Tenderly」オーナーバーテンダー。南大井のバー「リジョイ」の店長として9年間勤めながら、「サントリーバーテンダースクール」の講師を務め、講師の毛利隆雄氏に師事。女性バーテンダーがまだ数少ない時代から全国バーテンダー技能コンクールやメーカー主催の大会など数々のコンペティションに挑戦し、成果を収めてきた。1998年に独立し、自身のバーを開店。2020年には、NPO法人 プロフェッショナル・バーテンダーズ機構(PBO)の会長職であるチェアマンに就任。自店ではカクテルスクール、寄席、三業地として栄えた地元大森の文化を伝えるべく芸者によるお座敷遊びの入門講座などの開催をはじめ、You Tubeでの情報発信など、幅広い層に向けて業界の発展に尽力している。
伊藤 学(いとう・まなぶ)
1989年、新宿『カクテルバー・ギブソン』(現在は閉店)に入店。在籍時より、伝説的バー『いないいないばぁー』の藤田佳朗氏に師事。1993年、漫画『BARレモン・ハート』の著者古谷三敏氏が経営する『BARレモンハート』に移り、以後16年にわたり同店に勤務。2010年より2017年夏まで、会員制バーの六本木『Ne Plus Ultra』にてマスターバーテンダーを務める。現在はスピリッツ&シェアリング株式会社におけるクラシックカクテル部門統括兼マスターバーテンダーとしてスタッフへ技術指導をしつつ、日比谷「Mixology Heritage」にてカクテルを振舞っている。
インタビュー・文 沼由美子(ぬま・ゆみこ)
ライター、編集者。醸造酒、蒸留酒を共に愛しており、バー巡りがライフワーク。著書に『オンナひとり、ときどきふたり飲み』(交通新聞社)。取材・執筆に『読本 本格焼酎。』、編集に『神林先生の浅草案内(未完)』(ともにプレジデント社)などがある。