2024.07.22 Mon
体験してほしい超絶美味な『プレミアムバーボン』バーボンウイスキーとは?
ルーツ、定義、製法と味わいの特徴
The Premium Bourbon Experienceスコッチ、アイリッシュ、カナディアン、ジャパニーズと並び、世界5大ウイスキーのひとつに数えられるアメリカンウイスキー。アメリカンウイスキーの代表格として知られるバーボンウイスキーは、原料のコーン由来の甘さと、熟成によりもたらされるパワフルなバニラ香が印象的なお酒だ。今、世界では、バーボンウイスキー特有のフレーバーはそのままに、よりエレガントに進化したプレミアムバーボンが話題となっている。プレミアムバーボンを体験し、伝統と革新のハーモニーに酔いしれてほしい。
※記事内の画像はすべてイメージ。
バーボンウイスキーの語源を紐解いていくと、アメリカの歴史との重なりを感じる。アメリカは、1492年にコロンブスにより発見され、ヨーロッパ各国の植民地となっていった。1700年代には、スコットランドやアイルランドからの移民が、ライ麦や大麦を原料とした蒸留酒の製造を始めたといわれている。
1775年、アメリカ東部沿岸の植民地とイギリス本国との間で、アメリカ独立戦争が勃発。その際に、イギリスと対抗する立場にあったフランスは、アメリカ東部沿岸の植民地の独立を支援した。1776年にはアメリカ独立宣言が採択。植民地だったケンタッキー州の一部の地域は、フランスに感謝の意をこめて、ブルボン王朝の「ブルボン」を英語読みし、「バーボン郡」と名乗るようになったのである。
アメリカ独立戦争の終焉からほどなくの1789年、スコットランド移民の牧師、エライジャ・クレイグがトウモロコシを原料にウイスキーを造り、ケンタッキー州でのウイスキー造りが盛んになっていく。バーボン郡で造られたウイスキーは樽詰めされ、バーボン郡の川からオハイオ川、ミシシッピ川を下り、ニューオリンズなど南部の都市に運ばれるようになっていった。その際に、「バーボン郡」と樽に刻印したため、「レッドリカー」や「リキッドルビー」と呼ばれていたウイスキーが「バーボンウイスキー」と呼ばれるようになったのだ。そうして、1820年代以降に「バーボンウイスキー」の呼称が浸透したのである。
バーボンウイスキーは、ライウイスキーやコーンウイスキーなど主に7種類に分けられるアメリカンウイスキーの1つである。
まず、アメリカンウイスキーの定義をみていくと、アメリカで造られていることを前提として、連邦アルコール法により以下の定義がなされている。
『穀物を原料に190プルーフ(95%)以下で蒸留し、オーク樽で熟成(コーンウイスキーは必要なし)、80プルーフ(40%)以上でボトリングしたもの』
さらに以下の条件を満たすと、バーボンウイスキーと名乗れるのである。
①原料にトウモロコシを51%以上使用。
②アルコール度数160プルーフ(80%)以下で蒸留。
③内側を焦がしたオークの新樽にアルコール度数125プルーフ(62.5%)以下で詰める。
④ストレートバーボンを名乗るには2年以上の熟成が必要。
⑤ボトリングに際しては水以外を加えずに80プルーフ(40%)以上でボトリング。
※プルーフとはアメリカやイギリスで用いられているアルコール度数の単位で、アメリカンプルーフは0.5倍すると日本のアルコール度数になる。
バーボンウイスキーの語源はケンタッキー州バーボン郡に起因していたが、現在の定義にはアメリカで造られていれば州の限定はない。ただ、ケンタッキー州で造られ熟成されたものはケンタッキーバーボンウイスキーと呼称できる。全米で生産されるバーボンウイスキーの実に95%は、ケンタッキー州で造られている。
また、ケンタッキーバーボンウイスキーは、熟成4年未満のものはラベルに熟成期間の表示義務があるが、4年以上のものには表示義務がない。ストレートバーボンは2年以上の熟成で名乗れるが、ケンタッキー・ストレートバーボンウイスキーは4年以上を熟成しているものがほとんどである。
バーボンウイスキーの製造は、主に6つの工程で行われる。スコッチウイスキーとの違いや、製法が味わいに及ぼす影響に注目してみていこう。
①原料の粉砕
バーボンウイスキーは、原料の穀物のうち、トウモロコシを51%以上用いることが法律で義務づけられている。他、ライ麦や小麦、大麦麦芽を混合し、その混合比率をマッシュビルという。トウモロコシが多ければ甘くまろやかに、ライ麦が多ければオイリーでスパイシーに、小麦が多ければマイルドでソフトな仕上がりになる。各ブランド、秘伝のマッシュビルがあり、ハウススタイルの確立にマッシュビルは大きな影響を及ぼしているといえよう。
トウモロコシ、ライ麦、小麦、大麦麦芽…それぞれ別にハンマーミルで粉砕していく。
②糖化
粉砕した原料を、クッカーという巨大な鍋のような糖化槽に、原料別に仕込み水と合わせて投入。原料に合わせた温度で煮沸し、大麦麦芽の酵素の働きによって糖化していく。
仕込み水に用いるケンタッキー州の水はミネラル豊富な硬水で、ライムストーン・ウォーターと呼ばれている。硬度は300~350くらいで、pH値は7以上とアルカリ性に傾いている。大麦麦芽の糖化酵素が最もよく働くのはpH5.4~5.6。そこで、蒸留時に発生する酸性のバックセットと呼ばれる液体をクッカーに投入し、糖化酵素が働きやすいpHに整えるのだ。バーボンウイスキー独自のサワーマッシュ方式という糖化方法である。
③発酵
糖液は濾過せず、そのまま発酵槽に移し、イースト菌を投入してアルコール発酵を行っていく。発酵槽はファーメンターと呼ばれ、ほとんどの蒸留所がステンレス製のものを使っている。大手メーカーで木製の発酵槽を使っているのは、フォアローゼスなど数カ所しかない。
各蒸留所オリジナルのイースト菌にこだわっており、独自に培養を行っているところが多い。発酵には3~6日かけ、アルコール分8~10%のモロミができあがる。
④蒸留
蒸留には、ビアスチルと呼ばれる円筒式の連続式蒸留器と、ダブラーと呼ばれるポットスチルに似た形状の精留装置を使用する。ビアスチルの円筒の内部には、シープトレイという無数の穴が開いた棚で10~20段ほどに仕切られていて、まるで蒸し器のような構造になっている。上からモロミを投入し、下から蒸気を吹き上げて蒸留していく。抽出されたアルコール蒸気を冷却し、アルコール度数55~60%の液体を回収する。
それを、ダブラーで精留にかける。65~70%と低い蒸留度数で蒸留することにより、原料の香味成分を多く残した蒸留液、通称ホワイトドッグが回収される。
⑤熟成
熟成は、連邦アルコール法に則り、内側を焦がしたオークの新樽のみで行う。オークの種類は、ほぼアメリカン・ホワイトオーク。ヨーロピアン・オークの代名詞であるコモンオークに比べ、タンニンが少なく、バニリン香が多いのが特徴である。大きさはバレルと呼ばれる180~200Lのワンサイズを用いる。
樽の内側を焦がすことをチャーといい、グレード1~4まで、0.5刻みで7段階ある。バーボンウイスキーのメーカーでは、グレード3~4のヘビーチャーを施すところがほとんどである。樽の内側を焦がすことにより木材成分が変化し、蒸留液との反応によりカラメルやトースト香、バニラ香、スパイス香などの香味が生成されるのである。
バーボンウイスキーは62.5%以下で樽詰めすることが義務づけられているため、蒸留器から出てきた70%前後のホワイトドッグに加水して樽詰めしていく。樽詰めの度数をバレルエントリーといい、蒸留所ごとにこだわりがる。
熟成庫はラック式で、高いところでは木製の棚が27段ほど積み上げられている。熟成庫の上層階が最も熟成に適した場所とされており、イーグルズ・ネスト(鷲の巣)と呼ばれている。バーボンウイスキーでは、寒暖差により熟成がダイナミックに進むと考えられていて、イーグルズ・ネストの年間の寒暖差は50~60℃にもなる。
エンジェルズシェアは1年目が10~15%、2年目以降は4~5%と、スコッチに比べダイナミックだ。熟成が均一になるのを狙って、熟成中に樽の位置を上下で移動させるサイクリングを行っている蒸留所があるのも、スコッチと違う点である。
⑥ボトリング
バーボンウイスキーは、樽から出したウイスキーに加えて良いのは水だけで、40%以上でボトリングする必要がある。スコッチ、アイリッシュ、ジャパニーズ、カナディアンで認められている色調整のためのカラメル添加を連邦アルコール法で禁止することにより、バーボンウイスキーは熟成によってもたらされる色味そのものを楽しめるのだ。
文 馬越 ありさ
慶應義塾大学を卒業後、ラグジュアリーブランドに総合職として入社。『東京カレンダーweb』にてライター・デビュー。エッセイスト&オーナーバーマンの島地勝彦氏に師事し、ウイスキーに魅了される。蒸留所の立ち上げに参画した経験と、ウイスキープロフェッショナルの資格を活かし、業界専門誌などに執筆する他、『Advanced Time Online』(小学館)に連載を持つ。日本で唯一の蒸留酒の品評会・東京ウイスキー&スピリッツコンペティション(TWSC)の審査員も務める。