NEW1500.11.29 Thu
ウイスキーコニサー マスタークラスレポート『リージェント』の構成原酒を飲み比べ、新しいアメリカンウイスキーに出会う
サントリー株式会社
『リージェント』のブランドマネージャーを務めるサントリーの小野慎吾氏によるセミナーには、ウイスキー愛好家の30~50代の男女11名が集った。
まず初めに、ジムビーム蒸溜所の229年に及ぶ歴史が紹介された。ジムビーム蒸溜所は、サントリーと同じく創業一族による経営が続いており、現在は7代目のフレッド・ノウ氏がマスターディスティラーを務めている。ビーム一族は、著名なバーボンウイスキーの蒸溜所のマスターディスティラーを多数輩出しているなど、日本ではあまり知られていないエピソードも披露され、愛好家たちは興味深く聞き入っていた。
フレッド氏はバーボンウイスキーを多くの人に味わってもらいたいとの想いから、『デビルズカット』や『ジムビーム ハニー』など革新的な製品をリリースしてきた。2020年には、ISC(インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ)でマスターディスティラー・オブ・ザ・イヤーを受賞している。
一方、サントリーでは、5代目チーフブレンダーの福與伸二氏が2024年にISCでマスター・ブレンダー・オブ・ザ・イヤーを受賞。2人の“レジェンド”により生み出されたのが、『リージェント』なのである。
『リージェント』は、日本のブレンド技術をアメリカのウイスキー造りに持ち込み、3種類の原酒をブレンドして造られている。「構成原酒は、6年貯蔵のストレートバーボン、5年貯蔵のストレートバーボンを2年ワイン樽で後熟したもの、5年貯蔵のストレートバーボンを1年シェリー樽で後熟したものです。ジムビームのフレッドが造った原酒を、サントリーの福與がブレンドした、新しいウイスキーなのです」と小野氏が説明すると、愛好家から「『リージェント』はバーボンウイスキーなのでしょうか?」と質問が。
「バーボンウイスキーの定義は満たしていますが、はみ出しているとも捉えられるので、アメリカンウイスキーとして扱っています」と小野氏。ラベルにも、“ケンタッキーストレートバーボンウイスキーの一部をワイン樽とシェリー樽で後熟した”と明記されている。ただ、アメリカでは、バーボンウイスキーに後熟を施した製品も、バーボンウイスキーとして認知されているそうだ。
『リージェント』の開発は、サントリーがビーム社を買収した2014年の5月の直後から進んでいたという。バーボンウイスキーの可能性を模索する中で、原酒の造り分けに挑戦。まず、バーボンウイスキーに原材料が近いことから、グレーンウイスキーを製造する知多蒸溜所で、ワイン樽とシェリー樽での後熟を試みた。狙った通りのフレーバーに仕上がり、その知見を応用してジムビーム蒸溜所での原酒の造り分けに取り掛かる。
樽の品質には特にこだわった。ワイン樽は、カリフォルニアのナパの赤ワイン樽。フレーバーを活かすために硫黄燻蒸は施していない。シェリー樽はスペインのボデガから仕入れたオロロソの1stフィル。サントリーのブレンダーチームが半年間、ジムビーム蒸溜所に滞在し、樽の良し悪しの見分け方を伝授したという。
また、ケンタッキー州の熟成環境のなかで、樽から払い出すベストなタイミングも研究した。ケンタッキー州は夏がとても暑く熟成が進むため、ワイン樽は2夏、シェリー樽は1夏か、2夏を過ぎた直後に樽から払い出している。
こうして完成した『リージェント』は、アメリカでは2019年3月から発売開始。貯蔵庫にも『ベイカーズ』『ベイゼルヘイデン』『ブッカーズ』『ジムビーム』と並び、『リージェント』と刻まれ、大切に育まれてきたアメリカンウイスキーが、満を持して日本に本格上陸する。
お待ちかねの『リージェント』のテイスティング。普段はスコッチウイスキーを飲むことが多いという愛好家たち。参加者のほとんどが、今回、初めて飲むという。
「シェリー感が強く感じられるけれど、奥からバーボンの力強さもしっかりと感じられますね」と感嘆の声。
「このスパイシー感はシェリー樽由来とは少し違う渋味を感じます。ワイン樽からきているのでしょうか?」という声を受け、3種類の構成原酒を飲み進めていく。
6年貯蔵のストレートバーボンは、製品の40~50%を占める。マッシュビルは9年以上の長期熟成を施している『ノブクリーク』と同じで、王道のバーボンウイスキーのフレーバーだ。
5年貯蔵のストレートバーボンを2年ワイン樽で後熟した原酒は、「イチゴや赤ブドウのような香りが素晴らしい!」と愛好家たちが絶賛。「『リージェント』に潜んでいたスパイシー感は、赤ワイン樽由来だと感じ取れますね。タンニンの渋味が心地良い」との声に、「ホワイトオークなど色々な樽材を試し、程よいタンニンの風味をもたらすフレンチオーク製の樽を選んだのです」と小野氏。
5年貯蔵のストレートバーボンを1年シェリー樽で後熟した原酒は、単品で商品化して欲しいという声もあるそうだ。
構成原酒を飲み比べた後に、改めて『リージェント』を飲み、「シェリー樽由来の甘味と、ワイン樽由来のタンニンのバランスが素晴らしい」と、うっとりとする愛好家の姿も。配合比率は、今でも月に1度、原酒を取り寄せ、福與氏がチェックしているという。
「『リージェント』は、今までのバーボンウイスキーにはなかった重層的な味わいを感じられると思います」と小野氏が言うと、「オールドバーボンを思わせる香味の複雑さを感じますね」と愛好家たちも大きく頷いていた。
先行発売しているアメリカでは、「カクテルの表現の幅が増えた」とバーテンダーに好評だという『リージェント』。セミナーでは、四谷三丁目の『BAR AU BOUT DU MONDE(バーオブデュモンド)』のオーナーバーテンダー・福村亮人氏から、この日のために考案したスペシャルカクテルが振る舞われた。『BAR AU BOUT DU MONDE』でも『リージェント』を用いたオールドファッションドが外国人客に好評だという。今回は、梅をアクセントにしたプラムリキュールと、チェリーブランデーを用いた“和を感じるウイスキーサワー”を作成。「レモンだけでは物足りない…と感じミントで清涼感を足しました」と福村氏。「梅の酸味が『リージェント』の甘味と合っておいしい!」と女性にも大好評。華やかなフレーバーとスムースなテクスチャーのカクテルに酔いしれた。
アメリカンウイスキーの新しい味わいに出会い、終始、インタラクティブに会話が弾んだ『リージェント』のテイスティングセミナー。ウイスキーを長年、飲んできた愛好家たちが感じた「懐かしさを感じる、新しい味わい」を、是非、体験して欲しい。
文 馬越 ありさ
慶應義塾大学を卒業後、ラグジュアリーブランドに総合職として入社。『東京カレンダーweb』にてライター・デビュー。エッセイスト&オーナーバーマンの島地勝彦氏に師事し、ウイスキーに魅了される。蒸留所の立ち上げに参画した経験と、ウイスキープロフェッショナルの資格を活かし、業界専門誌などに執筆する他、『Advanced Time Online』(小学館)に連載を持つ。日本で唯一の蒸留酒の品評会・東京ウイスキー&スピリッツコンペティション(TWSC)の審査員も務める。