2024.12.25 Wed
ウイスキーコニサー マスタークラスレポート『リージェント』の構成原酒を飲み比べ、新しいアメリカンウイスキーに出会う
サントリー株式会社
『リージェント』のブランドマネージャーを務めるサントリーの小野慎吾氏によるセミナーには、ウイスキー愛好家の30~50代の男女11名が集った。
まず初めに、ジムビーム蒸溜所の229年に及ぶ歴史が紹介された。ジムビーム蒸溜所は、サントリーと同じく創業一族による経営が続いており、現在は8代目のフレディ・ノウ氏がマスターディスティラーを務めている。ビーム一族は、著名なバーボンウイスキーの蒸溜所のマスターディスティラーを多数輩出しているなど、日本ではあまり知られていないエピソードも披露され、愛好家たちは興味深く聞き入っていた。
7代目マスターディスティラーのフレッド氏はバーボンウイスキーを多くの人に味わってもらいたいとの想いから、『デビルズカット』や『ジムビーム ハニー』など革新的な製品をリリースしてきた。2020年には、ISC(インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ)でマスターディスティラー・オブ・ザ・イヤーを受賞している。
一方、サントリーでは、5代目チーフブレンダーの福與伸二氏が2024年にISCでマスター・ブレンダー・オブ・ザ・イヤーを受賞。世界の頂点に上り詰めた2人の日米レジェンドにより生み出されたのが、『リージェント』なのである。
『リージェント』は、日本のブレンド技術をアメリカのウイスキー造りに持ち込み、3種類の原酒をブレンドして造られている。
「構成原酒は、6年貯蔵のストレートバーボン、5年貯蔵のストレートバーボンを1−2夏ワイン樽で後熟したもの、5年貯蔵のストレートバーボンを1夏シェリー樽で後熟したものです。ジムビームのフレッドが造った原酒を、サントリーの福與がブレンドした、新しいアメリカンウイスキーなのです」と小野氏。“新しいアメリカンウイスキー”というキーワードに興味を示す愛好家たちに向けて、『リージェント』の開発秘話が語られた。
『リージェント』の開発は、サントリーがビーム社を買収した2014年から進んでいたという。バーボンウイスキーの可能性を模索する中で、原酒の造り分けに挑戦。まず、バーボンウイスキーに原材料が近いことから、グレーンウイスキー知多をワイン樽・シェリー樽で後熟し、その可能性を探った。狙った通りのフレーバーに仕上がり、その知見を応用してジムビーム蒸溜所での原酒の造り分けに取り掛かる。
樽の品質には特にこだわった。ワイン樽は、カリフォルニアの赤ワイン樽。シェリー樽はスペインのボデガから仕入れたオロロソの1stフィル。サントリーのブレンダーチームが半年〜1年、ジムビーム蒸溜所に行き来し、ジムビーム蒸溜所ではこれまで経験のない空き樽の選別方法を伝授したという。
また、ケンタッキー州の熟成環境のなかで、樽から払い出すベストなタイミングも研究した。ケンタッキー州は夏がとても暑く熟成が進むため、ワイン樽は1ー2夏、シェリー樽は1夏か、2夏を過ぎた直後に樽から払い出している。
こうして完成した『リージェント』は、アメリカでは2019年3月から発売開始。貯蔵庫にも『ベイカーズ』『ベイゼルヘイデン』『ブッカーズ』『ジムビーム』と並び、『リージェント』と刻まれ、大切に育まれてきたアメリカンウイスキーが、満を持して日本に本格上陸する。
お待ちかねの『リージェント』のテイスティング。普段はスコッチウイスキーを飲むことが多いという愛好家たち。参加者のほとんどが、今回、初めて飲むという。
「シェリー感が強く感じられるけれど、奥からバーボンの力強さもしっかりと感じられますね」と感嘆の声。
「このスパイシー感はシェリー樽由来とは少し違う渋味を感じます。ワイン樽からきているのでしょうか?」という声を受け、3種類の構成原酒を飲み進めていく。
6年貯蔵のストレートバーボンのマッシュビルは9年以上の長期熟成を施している『ノブクリーク』と同じで、王道のバーボンウイスキーのフレーバーだ。
5年貯蔵のストレートバーボンを1−2夏ワイン樽で後熟した原酒は、「イチゴや赤ブドウのような香りが素晴らしい!」と愛好家たちが絶賛。「『リージェント』に潜んでいたスパイシー感は、赤ワイン樽由来だと感じ取れますね。タンニンの渋味が心地良い」との声に、「ホワイトオークなど色々な樽材を試し、程よいタンニンの風味をもたらすフレンチオーク製の樽を選んだのです」と小野氏。
5年貯蔵のストレートバーボンを1夏シェリー樽で後熟した原酒は、単品で商品化して欲しいという声もあるそうだ。
構成原酒を飲み比べた後に、改めて『リージェント』を飲み、「シェリー樽由来の甘味と、ワイン樽由来のタンニンのバランスが素晴らしい」と、うっとりとする愛好家の姿も。配合比率は、今でも月に一度、原酒を取り寄せ、福與氏がチェックしているという。
「『リージェント』は、今までのバーボンウイスキーにはなかった重層的な味わいを感じられると思います」と小野氏が言うと、「オールドバーボンを思わせる香味の複雑さを感じますね」と愛好家たちも大きく頷いていた。
先行発売しているアメリカでは、「カクテルの表現の幅が増えた」とバーテンダーに好評だという『リージェント』。セミナーでは、四谷三丁目の『BAR AU BOUT DU MONDE(バーオブデュモンド)』のオーナーバーテンダー・福村亮人氏から、この日のために考案したスペシャルカクテルが振る舞われた。『BAR AU BOUT DU MONDE』でも『リージェント』を用いたオールドファッションドが外国人客に好評だという。今回は、梅をアクセントにしたプラムリキュールと、チェリーブランデーを用いた“和を感じるウイスキーサワー”を作成。「レモンだけでは物足りない…と感じミントで清涼感を足しました」と福村氏。「梅の酸味が『リージェント』の甘味と合っておいしい!」と女性にも大好評。華やかなフレーバーとスムースなテクスチャーのカクテルに酔いしれた。
アメリカンウイスキーの新しい味わいに出会い、終始、インタラクティブに会話が弾んだ『リージェント』のテイスティングセミナー。ウイスキーを長年、飲んできた愛好家たちが感じた「懐かしさを感じる、新しい味わい」を、是非、体験して欲しい。
文 馬越 ありさ
慶應義塾大学を卒業後、ラグジュアリーブランドに総合職として入社。『東京カレンダーweb』にてライター・デビュー。エッセイスト&オーナーバーマンの島地勝彦氏に師事し、ウイスキーに魅了される。蒸留所の立ち上げに参画した経験と、ウイスキープロフェッショナルの資格を活かし、業界専門誌などに執筆する他、『Advanced Time Online』(小学館)に連載を持つ。日本で唯一の蒸留酒の品評会・東京ウイスキー&スピリッツコンペティション(TWSC)の審査員も務める。
サントリー「LEGENT(リージェント)」オフィシャルサイト
https://www.suntory.co.jp/whisky/legent/