2024.12.10 Tue
ブッシュミルズの伝統と革新、未来への挑戦ブッシュミルズ蒸溜所マスターディスティラー コラム・イーガン氏によるマスタークラスをレポート
[PR]アサヒビール株式会社ブッシュミルズ蒸溜所のマスターディスティラー、コラム・イーガン氏の来日を記念して、大阪、東京の2都市でバーテンダー向けのマスタークラスが開催された。イーガン氏による『ブッシュミルズの伝統と革新、未来への挑戦』をテーマにした講演と、テイスティングセミナーには『ブッシュミルズ シングルモルト 10年、12年、16年、21年』だけでなく、サプライズで『ブッシュミルズ シングルモルト 25年、30年』も登場。イーガン氏の陽気な人柄のおかげもあり、活況となった東京でのマスタークラスをレポートする。
セミナーの冒頭、イーガン氏より、100年以上前の、ブッシュミルズ蒸溜所と日本の繋がりを物語るエピソードが披露された。1890年、ブッシュミルズは『SSブッシュミルズ号』という自社の船を保有し、そこには長崎県出身のクルーがいたというのだ。1891年の4月には、ウイスキーを積んで横浜港に来た記録が残っている。
イーガン氏がブッシュミルズに参画したのも、運命的な出会いがきっかけだった。故郷、アイルランドから離れ、ロンドンでビール関係の仕事をしていたイーガン氏。とても美しい女性と出会い、女性の実家のある北アイルランドに赴く。女性は兄弟が多く、皆がアイルランドの方言で話すなかで、疎外感をおぼえたイーガン氏。女性が「気分転換に…」と連れ出してくれたのが、実家から20kmほどの場所にあるブッシュミルズ蒸溜所だった。後に、その女性と結婚をし、20年以上、ブッシュミルズ蒸溜所のマスターディスティラーを務めることとなった。
また、ブッシュミルズ蒸溜所の地域に『聖コラムの泉』(※Saint Columb’s Rill)という、自分と同じ名の泉があったということを知ったイーガン氏。「運命に導かれてブッシュミルズ蒸溜所で働くようになり、日本へ来る縁ができたのだろうと信じています」とロマンチックな一面をのぞかせた。
早速、『ブッシュミルズ シングルモルト 10年』をイーガン氏の解説と共にテイスティング。
「色はクリアで綺麗ですね。熟成樽はバーボン樽とオロロソシェリー樽を用いています。香りはアルコールの刺激が少なく、親しみを感じますね。まるで、元気?と話しかけてくれる友達のよう」とイーガン氏。「味わいは、喉を過ぎてから、フルーティーさやバニラのようなフレーバーが口内に蘇ってくると思います。この蘇ってくる感じは、他のシングルモルトにはない特徴ですね。私は、食中酒やカクテルとして愉しむことをお勧めしています。日本で試してみて、お寿司とも合うと思いました。」
イーガン氏の音頭のもと、「スロンチャ!」とうアイルランド語での乾杯をし、会場は温かな空気に包まれた。
ブッシュミルズは、1608年に王室から蒸溜認可を受けている。1889年のパリ万博では、ブッシュミルズ蒸溜所のウイスキーが高い評価を得たという記録もある。「ブッシュミルズ蒸溜所のハウススタイルは、創業当時から引き継いでおり、マスターディスティラーとして、何世代も前からの伝統を受け継いでいることに誇りと責任を感じています」とイーガン氏。ブッシュミルズ蒸溜所は、長年の地域に対する貢献が認められ、アイルランド銀行の発行するお札にも描かれているのだ。
アイリッシュウイスキーの産地であるアイルランド島は、北アイルランドとアイルランド共和国と合わせて、南北が500km、東西が300kmほど。島全域で雨が多く、緑が豊かな風土だ。ブッシュミルズ蒸溜所は、北アイルランドの北東部に位置し、緯度は北海道よりも高い。ブッシュミルズ蒸溜所から2kmのところには、ユネスコ世界遺産の『ジャイアンツコーズウェイ』がある。上から見ると六角形の玄武岩が立ち並んでいる、荘厳な風景だ。「太古の昔から変わらない景色を見ながら、何百年も変わらぬ味を守り続けているブッシュミルズのウイスキーを飲むのは、感動的な体験です」とイーガン氏は言う。
ブッシュミルズのウイスキーは世界的に評価が高まってきており、生産能力を拡充するため、2023年、コーズウェイ蒸溜所を開設した。ブッシュミルズ蒸溜所と全く同じウイスキーを、より多く造ることを目的としている。イーガン氏は1882年のヴィンテージのブッシュミルズのウイスキーを飲む機会に恵まれた際、今、自分が造っているウイスキーと全く同じフレーバーであることを確信したと興奮気味に語った。そして、「マスターディスティラーとして、去年、今年、そして50年後にリリースするウイスキーまで、ハウススタイルを守り続ける責務があります」とイーガン氏。そのため、コーズウェイ蒸溜所を立ち上げる際には、先代、先々代の意見をヒアリングし、取り入れるようにした。
続いて、『ブッシュミルズ シングルモルト 12年』をテイスティング。「バーボン樽とオロロソシェリー樽でそれぞれ11年以上熟成したのち、シチリア産のマルサラワイン樽で6カ月以上熟成し、計12年以上の熟成を経ています。10年とは色も違いますね。ひとくち含むと、口の中に蜂蜜のようなニュアンスが沸いてくると思います。ハイボールとして飲んでもおいしいです」とイーガン氏。
ブッシュミルズ蒸溜所はアイルランド産の大麦麦芽100%で造られ、ノンピートなのが特徴だ。仕込み水は、蒸溜所の側を流れるブッシュ川の水源から引き込んでいる。玄武岩で磨かれたミネラル豊富な水質の川で、蒸溜所名の由来にもなっている。「すべて地元の原材料でウイスキーを造っていることに誇りを感じています」とイーガン氏。
3回蒸溜を行っているのも、ブッシュミルズ蒸溜所のこだわりだ。3回蒸溜により、スムースでエレガントなウイスキーが造られるという。3回の蒸溜を経てアルコール度数80%のニュポーットが抽出される。この時、既に、花やフルーティーな香り、ほのかなスパイス感を感じられるという。
アルコール度数80%の液体というのは、指を入れて引き上げると、すぐに指が乾いていしまう度数だ。そのため、ニューポットは60%くらいに加水をして、樽での熟成工程にうつる。ブッシュミルズ蒸溜所は、樽職人をかかえている数少ない蒸溜所のひとつでもある。樽職人のクリス・ケイン氏は、4世代、140年にわたってブッシュミルズ蒸溜所に勤めている。「ブッシュミルズ蒸溜所は、長く働き続ける職人が多いのも誇るべき点です。大きな家族のような職場なのです」とイーガン氏。
スペイン産シェリー樽を調達している、ヘレスのパエス・ロバト家とは、家族のような付き合いが続いているという。マスターブレンダーのアレックス・トーマス氏は、毎年、ボテガに行き、シェリー樽を厳選している。アレックス氏は、ブッシュミルズ蒸溜所の樽のエキスパートとして、イーガン氏を支えている。貯蔵庫には、50年前に樽詰めされたものから最近のものまで、60万個もの樽が眠っており、アレックス氏は全ての樽を把握しているのだ。
「『ブッシュミルズ シングルモルト 16年』は、バーボン樽とオロロソシェリー樽でそれぞれ熟成したものを50%ずつ用い、最後にポートワイン樽で仕上げました。アーモンドやチョコレートの香りが強めに感じられると思います。ポートワイン樽で仕上げているので、喉を通っていく時に温かい感じがしますね。舌の上から口の両脇までアーモンドやチョコレートのニュアンスが広がります。スコッチウイスキーの愛好家にも親しみやすいフレーバーなのではないでしょうか」とイーガン氏。
「『ブッシュミルズ シングルモルト 21年』は、バーボン樽とオロロソシェリー樽でそれぞれ19年間熟成したのち、マデイラワイン樽で2年間熟成しました。先ほどまではミルクチョコレートのイメージでしたが、こちらはダークチョコレートを感じますね。甘いニュアンスも、フレッシュなイメージから、干したレーズンを用いたケーキを感じます。『ブッシュミルズ シングルモルト 16年』と『ブッシュミルズ シングルモルト 21年』は、特別な時に飲むのにふさわしい味わいです。食後にダークチョコレートやビーフなどのおつまみと合わせても良いと思います。
唇を閉じてみて、少し開いてみて、もう一度唇を閉じて、余韻を感じてみてください。濃厚な甘さが続きますね」とイーガン氏が言うと、実際に試してみて頷いている参加者の姿が見られた。
最後に、サプライズで用意されていたのは『ブッシュミルズ シングルモルト 25年』と『ブッシュミルズ シングルモルト 30年』!
「『ブッシュミルズ シングルモルト 25年』はバーボン樽とオロロソシェリー樽で約6年熟成させたのち、ルビーポート樽で21年熟成させました。キャラメリゼされたチェリーやプラムを感じますね。先ほどのように、ゆっくりと余韻を味わってみて下さい」とイーガン氏。
「『ブッシュミルズ シングルモルト 30年』は、バーボン樽とシェリー樽で約14年熟成させたのち、ペドロヒメネス樽で約16年熟成させており、デーツやブラックベリー、トフィーといった濃厚なフレーバーが感じられます。30年前の自分の人生を思い返しながら飲むのも面白いのではないでしょうか」というイーガン氏の言葉に、目を閉じてうっとりと味わう参加者の姿が見られた。
「ブッシュミルズ蒸溜所は400年間、同じ味わいのウイスキーを造り続けています。時代の潮流に流されず、自分たちの味を守り続けてきたのです」と力強く締めくくったイーガン氏。伝統を守り続けることが、未来への挑戦に繋がるのだと実感したマスタークラスだった。
コラム・イーガン(Colum Egan)
ブッシュミルズ蒸溜所の蒸溜責任者として、世界的に高い評価を受けています。リメリック大学で生産管理の学位を取得後、ブッシュミルズ蒸溜所を訪れ、その歴史と遺産に深い感銘を受け、マスターディスティラーとしてのキャリアを志すようになりました。2002年にブッシュミルズのマスターディスティラーに就任して以来、20年以上にわたり、伝統的なウイスキー作りの技術を守りつつ、革新的な新商品の開発にも携わっています。
ブッシュミルズ
アイルランド島の北端、冷たい海に面したイギリス領北アイルランド・アントリム州。この地に立つブッシュミルズ蒸溜所は、世界最古のウイスキー認可蒸溜所として400年を超える伝統を誇ります。アイリッシュウイスキーの伝統的な製法である3回蒸溜を守り、モルト原酒の原料には100%アイルランド産のノンピート麦芽を使用することで、軽やかでスムースな口当たりを実現。それでいてモルトの味わいがしっかりと感じられるのが特徴です。
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文 馬越 ありさ
慶應義塾大学を卒業後、ラグジュアリーブランドに総合職として入社。『東京カレンダーweb』にてライター・デビュー。エッセイスト&オーナーバーマンの島地勝彦氏に師事し、ウイスキーに魅了される。蒸留所の立ち上げに参画した経験と、ウイスキープロフェッショナルの資格を活かし、業界専門誌などに執筆する他、『Advanced Time Online』(小学館)に連載を持つ。日本で唯一の蒸留酒の品評会・東京ウイスキー&スピリッツコンペティション(TWSC)の審査員も務める。