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NEW2025.04.21 Mon

『東京ウイスキー』ブレンダー 屋久佑輔氏が語る、その技術とこだわりバーテンダーの歴史と原酒の熟成を重ね、“東京らしさ”を表現した『東京ウイスキー2024』。ブレンドに込められた構想と哲学

屋久 佑輔さん(長濱蒸溜所 チーフブレンダー)

2024年に登場した第3弾『東京ウイスキー』は、圧倒的にスムーズな飲み口と華やかな香味構成で、ブランドの魅力をさらに高めた1本となった。第1弾からブレンドを手がけるのは、滋賀県びわ湖北部にある長濱蒸溜所でチーフブレンダーを務める屋久佑輔さん。7種のモルト原酒を用いながら、それぞれの個性を活かす難しさと向き合い、味わいに“東京らしさ”をどう表現するかに挑んだ屋久さんの言葉から、このウイスキーの本質に迫る。

個性を活かし、調和を生む──7つの原酒をつなぐブレンディング哲学

「今回のブレンドでは、7種類の多種多様な原酒を使用しました。それぞれの原酒が持っている個性を活かすことを、最も大切にしました」

そう語る屋久氏は、ブレンダーとして“素材”に向き合う真摯な姿勢を持ち続けている。


使用された原酒は、長濱蒸溜所のノンピート・シェリー樽熟成原酒やミズナラ樽熟成原酒、そして海外から取り寄せたビンテージ原酒など計7種類に及ぶ。特に注目すべきは、1990年蒸溜の30年熟成モルトや、1996年蒸溜のモルトといった長期熟成の原酒だ。それぞれが豊かな香味を持ち、個としての完成度が高いがゆえに、ひとつにまとめるには緻密なバランス感覚が求められた。


「ビンテージ原酒のもつ奥行きや重厚感を損なわず、いかにして滑らかな流れを作るか。コクや深みをしっかりと表現することが課題でした。結果として、個性をぶつけ合うのではなく、共鳴しあうようなブレンドを目指しました」


長濱蒸溜所でチーフブレンダーを務める屋久さん。『東京ウイスキー』の味わいには、屋久さんのブレンド技術の高さがうかがえる。

毛利隆雄氏の“お酒と向き合う姿”は、ブレンダーとしての自分にも大きな刺激になった

『東京ウイスキー』シリーズにおいて、監修を務めるのは伝説的なバーテンダー・毛利隆雄氏。その存在は、屋久氏にとって技術面だけでなく、精神面でも大きなインスピレーションを与える存在だった。


「毛利さんの印象的だったのは、ウイスキーに対する考え方はもちろんですが、“お酒と対峙する姿”そのものでした。一杯に込める誠実さ、お客様と向き合う真摯な態度……それは、毛利さんが培ってきた経験と歴史そのものだと思います」

長年カウンターの最前線に立ち続け、人々を魅了してきた毛利氏。その姿勢から感じ取った“信念”は、原酒という素材に向き合うブレンダーの姿にも通じるものがあり、屋久氏はそこに“職人”としての共感を見出したという。

“歴史と多様性”──この1本で感じてほしいのは、東京という都市が持つ時間と層の厚さ

屋久さんは、『東京ウイスキー2024』をひとことで表現するならば“歴史と多様性”だという。


「たとえば、30年という長い時間をかけて熟成された1990年蒸溜の原酒、そして毛利さんのバーテンダー人生。そのどちらも“歴史”を象徴しています。一方で、長濱蒸溜所が所有する個性ある原酒、海外から取り寄せた原酒、さらには東京・長浜・京都を結ぶ風呂敷のデザインなど、多様な要素が混ざり合って“東京”らしい多層的な世界観ができあがったと思います」


香りは、フローラルで明るく、青りんごや洋梨を想わせるエステリーな香気が広がる。ミドルには樽香に由来するバニラや蜂蜜、やがてスパイスのニュアンスが追いかけてくる。

「口当たりは滑らかで、ラムレーズンのようなコクがあります。しっかりとしたウッディーさもあり、最後にはオリエンタルで華やかな余韻が続きます」


ジャパニーズウイスキーの世界はここ数年で急速に広がり、多くの蒸溜所が独自の哲学を掲げて競い合っている。その中で『東京ウイスキー』が提示する個性とは何か──屋久氏は「ブレンドの妙に注目してほしい」と話す。


「長濱蒸溜所では、自社で蒸溜した原酒だけでなく、複数の海外原酒も所有しています。今回は、その自社原酒と海外原酒を掛け合わせることで、日本国内だけでは生まれない奥行きと広がりを追求しました」


単に風味の幅を広げるためではない。「異なる背景を持った原酒同士を調和させること」は、東京という都市の“多様性”を象徴的に描く手法でもあった。


「各原酒の個性がしっかりと生きていながら、全体としてのまとまりがある。その絶妙なバランスにこそ、『東京ウイスキー』ならではの魅力があると思っています」


第1弾から第3弾まで、『東京ウイスキー』の試作を様々なアプローチで提案してきた。この数多くの試作ボトルを見れば、屋久さんのこだわりと自信を感じることができる。

背景にあるストーリーまで感じてもらえる“旅するウイスキー”に

この1本は、ただ味わうだけのウイスキーではない──屋久氏はそう語る。

「“歴史を旅する”ような感覚で楽しんでいただきたい。風味の奥にあるストーリーや、関わった人たちの想い、背景にある文化などを感じながら、時間をかけてじっくり味わっていただければと思います」


第4弾に向けての構想もすでに膨らんでいるという。

「もし次があるなら、桜樽やミズナラ樽など“和”の要素をさらに取り込んで、“和食に合うウイスキー”という切り口でも面白いチャレンジができるのではと思っています」


歴史と革新、多様性と調和。それらを内包した『東京ウイスキー』の物語は、まだ始まったばかりだ。


第4弾が実現するとしたら、日本ならではの木を使った樽で、“和食に合うウイスキー”をつくってみたいと構想を語る屋久さん。


屋久 佑輔(やひさ ゆうすけ)
東京都練馬区出身。埼玉県川口市のバーで働くかたわら、全国の蒸溜所を訪ね歩きウイスキーの奥深さに魅了され『ウイスキー造りに携わりたい』という想いを抱くようになり、2017年長濱蒸溜所入社。当初は仕込み・蒸溜を担当、現在はチーフブレンダーとして勤務。2020年World Blended Whisky AMAHAGANシリーズは英国コンペティションにてAMAHAGAN Edition No.3部門最高賞を獲得。日本一小さな蒸溜所で世界一大きな夢を持ち、ウイスキー造りに日々励んでいる。

長濱蒸溜所
2016年11月に稼働した日本最小規模のウイスキー蒸溜所。 滋賀県長浜市にある長濱蒸溜所は、クラフトビールの醸造所とレストランを併設され、蒸溜所の面積は約8坪。 非常にめずらしい形状のポットスチルを使用し、他では味わうことができない唯一無二の原酒を生み出している。

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