
2025.10.15 Wed
名古屋「Bar K-9」コラボオリジナルボトルを限定販売フルーツと七面鳥の旨味が溶けあう未知なる酒「ペチュガ」オリジナルボトルができるまで
「Bar K-9」後藤啓輔さん×「JDOX」鶴巻大地郎さん「ペチュガ」とは、メキシコで古くから受け継がれてきた特別なメスカル。もともとは死者を偲び、感謝し、生きる喜びを分かち合う 「死者の日」 にだけ蒸留されてきたスピリッツである。
この度、名古屋 「Bar K-9」 オーナーバーテンダーの後藤啓輔さんと、今回だけの特殊な造りをかなえ、フルーティーで旨味も豊か、余韻も愉しい一本が仕上がった。完成までを振り返り、味わいを語る。
「ロペスレアルペチュガ スペシャルエディション LOPEZ REAL PECHUGA SPECIAL EDITION」
果実を加え、さらに鶏肉を吊るして再蒸留する伝統的な儀式製法によって生まれるペチュガを2回蒸留で仕上げた今回だけのスペシャルエディション。香りは実際に使用しているパイナップルやリンゴのフルーティーさを中心に、七面鳥由来の旨味が寄り添う。
※少量限定輸入
価格:¥20,350(税込)
内容量:750ml
アルコール度数:51%
原料:100% アガベ(エスパディン)
産地:メキシコ オアハカ州サンティアゴ・マタトラン

ふたりの出会いは、2024年になる。鶴巻さんが後藤さんのバーを訪れた際に年齢が近いこともあって意気投合し、テキーラやメスカルの話題で関係を深めてきた。後藤さんがメキシコ現地の蒸留所への興味が高まってきた頃、鶴巻さんからオリジナルの「ペチュガ」を一緒に造ってみないかと声がかかる。

後藤 「ペチュガ」は家族や地域のつながりを象徴する文化的な意味をもつスピリッツで、日本では極めてマイナーな未知なる酒といえます。蒸留所に行けるだけでも貴重なのに、造りに参加できることに驚き、すぐに話を進めてもらいました。
鶴巻 「ペチュガ」はメスカルに果物やスパイスを浸漬し、 再蒸留するときに七面鳥などの生肉をポットスチルに吊るします。生肉は味のためというよりは、死者の日に七面鳥などを食す食文化があるから。本来は供物的な意味を持ちます。蒸気が肉を通過することで旨味と香りがメスカルに移り、 複雑で奥行きのある味わいになるんですね。近年は洗練されたフルーティーなものが増えていますが、 初めて飲んだ「ペチュガ」のインパクトが忘れられなくて。僕自身、いつか動物的な旨味を強く感じられる「ペチュガ」 を造りたいと思っていたんです。

後藤 訪ねたのはメスカル「ロペスレアル」の生産者の蒸留所です。ペチュガ造りは、まず先代への祈りから始まりました。実際にその光景を目の当たりにして、「ペチュガ」が「文化的なお酒」と言われる理由がわかりました。単なる製法ではなく、家族や地域に受け継がれる儀式に近く、そこに伝わる文化を映し出すお酒なのです。
鶴巻 僕たちもアガベ畑に行き、一家と一緒にアガベに祈りを捧げました。命をいただいてお酒を造っていることを、あらためて強く実感する瞬間でした。
後藤 旅程の都合で製造日が決まったのに、その日は偶然にも先代マスターディスティラーの命日で、結果的に特別な日に仕込めたことも運命的でしたね。

鶴巻 通常、「ペチュガ」は保管しているメスカルに家伝のレシピに則ったフルーツを漬け込み、 再蒸留 (つまり3回目の蒸留) をします。 でも、今回のオリジナルボトルでは、 アガベジュースを発酵して1回だけ蒸留したオルディナリオという原酒、 つまりアルコール度数20%前後のものをベースにしました。そこに5種のフルーツを浸漬し、七面鳥を蒸留機につるしてゆっくり蒸留をした。つまり2回蒸留に挑戦したわけです。
後藤 本来蒸留回数を変えることはほぼありません。でも、メスカルよりアルコール度数の低い原酒で造ることでよりたくさんの蒸気が出て、アミノ酸の一部が反応し香気化合物を生成することにより、動物感を感じるので、より七面鳥の旨味を引き出すねらいがありました。
鶴巻 伝統的な手法を変えてまで僕たちの思いに応えてくれたロペスレアル家の心意気に、感動しましたね。
浸漬するフルーツには、リンゴ、テホコテ (バラ科のオレンジ色の果実。固めで梨のような食感とほのかな甘さが特徴。)、 パイナップル、グアヤーバ(メキシコ産グァバ)、そしてロペスレアル家の 「ペチュガ」 には必ず入るというパッションフルーツの5種類を採用した。ここにもまた豊穣や繁栄の願いが込められている。 完成した「ペチュガ」 を味わい、感慨深く感想を語り合う。
後藤 フルーツの華やかな香りとアガベの甘味のバランスが秀逸ですね!3回蒸留だとシャープさやドライな感じに仕上がりますが、これは2回蒸留のためか味にあたたかみを感じます。
鶴巻 より力強く、奥深い複雑味がありますね。余韻が長く、その後心地よく消えていきます。
後藤 酒質がきれいで、食事との相性もよさそうです。是非ストレートで味わってみてほしいですね。今回のスペシャルエディションは、とても重層的な香りがあるので、常温で少し時間をかけて味わうと、より一層深い体験ができます。
鶴巻 僕は“野生と官能の共鳴”と表現します。蒸留した日の空気と祈り、生あるものへの感謝が一体となった一期一会の味わいです。これはただの限定酒ではなく、造り手と僕たちが共有した時間を閉じ込めたお酒です。文化の背景まで含めて味わえることこそ「ペチュガ」の魅力です。

「ペチュガ」の奥深さを伝えるべく、後藤さんが贅沢にカクテルを提案する。
「造りに使われるリンゴをフックに、焼きリンゴのピュレを加えてフルーティーさを引き出しつつ、コクを強化。テクスチャーもユニークになります。 後味にはアガベの風味とふくよかな甘味が広がるので、メキシコで飲んでいる気分に浸って愉しんでいただきたいですね」
- 「Pechuga Fruta Rosada (祝杯)」
- 〈レシピ〉
- ・ロペスレアル ペチュガ SE……45ml
・シェリー酒 アモンティリャード…5ml
・ライムジュース…10ml
・スパイスオルジェシロップ(※1)…15ml
・焼きリンゴのピュレ(※2)…20ml
・ガーニッシュ:ドライアップル…1枚
- 〈つくり方〉
- ①すべての材料をシェイカーに入れ、
氷(分量外)を加えてシェイクする。
②グラスに氷(分量外)を入れ、1をダブルストレインで注ぎ入れる。
ドライアップルを飾る。

(※2)スライスしたリンゴ、上白糖、リンゴジャムを耐熱袋に入れ、75℃の湯で2時間加熱し、裏ごしする。
メスカルの聖地オアハカ州サンティアゴ・マタトランにて、三代にわたって受け継がれてきた家族の伝統を守るクラフト・メスカルブランド。
若き当主がレシピを継承しながら一滴一滴に誇りと土地の記憶を刻み込んでいます。
派手さではなく、静かに心に残る余韻を。このボトルには、時と大地と人とそしてアガベの営みがそのまま詰まっています。

インタビュー・文 沼由美子
ライター、編集者。醸造酒、蒸留酒を共に愛しており、バー巡りがライフワーク。著書に『オンナひとり、ときどきふたり飲み』(交通新聞社)。取材・執筆に『EST! カクテルブック』『読本 本格焼酎。』『江戸呑み 江戸の“つまみ”と晩酌のお楽しみ』、編集に『神林先生の浅草案内(未完)』(ともにプレジデント社)などがある。