
2026.02.8 Sun
「ダフタウンの野獣」と称されるスペイサイドのシングルモルト『MORTLACH』上野秀嗣さんがつくる『モートラック』
ハイボール&オン・ザ・ロック
上野秀嗣さん (BAR HIGH FIVE)[PR]DIAGEO Japan株式会社

1823年から、スコットランドのスペイサイド地区に位置するダフタウンで造られる歴史あるシングルモルト『MORTLACH(モートラック)』。
スコットランドでは、蒸溜回数は2回が一般的なところ、『モートラック』は独自の蒸溜方法で「2.81回蒸溜」を19世紀後半から続けている。3基の初溜釜と3基の再溜釜を組み合わせる複雑な蒸溜方法で、3種類の異なるニューポットを造り、それらをブレンドして原酒とする。スペイサイドのウイスキーと訊いてイメージする軽快さやフルーティーさとは対照的な、濃厚で肉厚(ミーティー)な風味や強いボディ感、重層的に折り重なる樽由来のニュアンスが持ち味だ。この味わいこそが「ダフタウンの野獣」と評されるゆえんである。
パワフルで重厚な『モートラック』を、ウイスキーの王道であるハイボール、オン・ザ・ロックで提供する際の核心とは——。東京・銀座「BAR HIGH FIVE」のオーナーバーテンダー、上野秀嗣さんのアプローチを教えてもらう。
今回、紹介するのは『モートラック 12年』と『モートラック 16年』である。上野さんに、まず『モートラック 12年』をテイスティングしてもらう。
「洗練されたボトルのデザインに対して、実際に飲んでみると無骨な印象の味わいです。そのギャップが面白いですね。スコットランドのスペイサイド地区のウイスキーは、引っかかりがなくすっと飲めるウイスキーが多い印象ですが、『モートラック』は一線を画しています。ウッディな力強さと芳醇な旨み、スパイシーさがあって、後からフルーツ感が追いかけてきます」
この『モートラック 12年』をベースに、上野さんならではのアプローチでハイボールをつくってもらう。
『モートラック 12年』をテイスティングし、香りと味わいを語る上野秀嗣さん。
「2つ以上のものを混ぜるという意味で、私は、ハイボールはれっきとしたカクテルだと思っています」
そう語る上野さんのハイボールのアプローチは、大きくわけて2つある。ひとつは、主役となるウイスキーが持つ味わいと同調する副材料を選ぶこと。もうひとつは、ウイスキーにない味わいの副材料を選ぶこと。今回、『モートラック 12年』のハイボールには後者のアプローチを選んだ。加えたのは、自家製のゆずビターズだ。
「『モートラック 12年』は骨太な味わいでパンチがあるので、対する要素として、自家製でつくっているビターズの中からゆずを選びました。当店は海外からのお客様も多く、日本でないとできない体験を提供したいという気持ちもあります」
上野さんがハイボールで大事にしているのは、「極力、手を加えず、いかにクリアな飲み心地にできるか」だという。材料は最低限に。なるべくいじらずに変化を付けることを追求する。
「ハイボールの魅力は、プハ~ッと心地よく飲めるかどうか。いかにクリーンな味わいにできるかがとても大事で、氷と炭酸水をどう扱うかに尽きます。まず氷は、冷凍庫から出して室温に数分置くことで表面をゆるませます。冷凍庫から出し立ての白い氷は表面に水蒸気をまとった状態なので、そこに炭酸水を注いでは炭酸がすぐ抜けてしまうからです。そして、グラスの内側を狙って少し勢いよく注ぐと、グラスのなかに自然な対流が生まれて、炭酸が無駄に抜けることなく全体が混ざるのです」
差し出されたグラスに口をつけると、ゆずの鮮烈な爽快感と透明感が駆け抜け、余韻には『モートラック 12年』の肉厚な風味が広がる。グラスの中に、狙ったとおりのハイボールが完成していた。
氷と炭酸水の扱いはハイボールをクリーンな味わいに仕上げるための重要な要素、と上野さん。
- 『モートラック 12年』ハイボール
- 〈材料〉
- ・モートラック 12年… 30ml
・炭酸水…適量
・自家製ゆずビターズ(※1)… 1tsp
(※1)ゆずの果皮を剥いて乾燥させ、ハイプルーフ(高濃度アルコール)を注ぎ、1年ほどかけて抽出する。 - 〈つくり方〉
- グラス(16オンスを使用)に氷、自家製ゆずビターズ、『モートラック 12年』を入れてステアし、グラスの内側を狙って炭酸水を注ぎグラスを満たす。最後に軽くステアする。
上野さんによる『モートラック 12年』のハイボールメイキング動画はこちらからご覧いただけます。
続いて、『モートラック 16年』だ。ストレートで味わった印象を訊いた。
「12年とはまた別物ですね。熟成感が格段に増しています。フルーティーなニュアンスもぐっと出ています。雑味や引っかかり感がなく、円熟した力強さやフルーティーな甘味、スパイス感といったバランスの調和が秀逸です」
12年に比べ、熟成感が格段に増しているという『モートラック 16年』。円熟した力強さ、フルーティーさ、スパイスが見事に調和されている。
オン・ザ・ロックは、ハイボール同様に氷は冷凍庫から出して表面をゆるませて使う。上野さんといえば、まな板の上でなく、手で持ちながら氷の角を落として形づくるダイヤモンドカットが有名で、そのナイフ捌きは見事なもの。みるみるうちにダイヤモンドカットの氷が完成し、大ぶりのロックグラスにぴったりと収まる。『モートラック 16年』を注ぐと、多面体の氷に琥珀色の液体がキラキラ反射して美しい。
「一時期、日本ではオン・ザ・ロックに丸氷を使うお店が多かったので、それじゃ面白くないと私の店では多面体のカットにしました。手持ちでカットするのは、日本バーテンダー協会の技能競技大会で行うフルーツカッティング部門で、果物の皮を剥く練習を重ねてきたので、もう身体に染みついているんです(笑)。氷の形はダイヤモンドカットでなくてもいいと思うのですが、熟成させたブラウンスピリッツをキラキラさせて愉しんでいただこうというのがもともとの考えなのです」
ダイヤモンドカットの氷が映える『モートラック 16年』のオン・ザ・ロック。
上野さんによるダイヤモンドカットの氷を使ったオン・ザ・ロックのメイキング動画はこちらからご覧いただけます。
もし、『モートラック』をカクテルにするなら、と訊いてみた。
「私からお客様にこんなカクテルで味わうのがおすすめですと申し上げることはありません。お客様が望まれたものをおいしく提供するだけです。でも、これだけのスコッチなら、カクテルにする際は副材料を減らしたいと考えます。副材料は極力シンプルに。濃縮された重層的な味わいを愉しんでいただきたいと思います」
上野秀嗣(うえの ひでつぐ)
1968年生まれ、北海道出身。東京・銀座「BAR HIGH FIVE」オーナーバーテンダー。一般社団法人日本バーテンダー協会会長。令和3年「現代の名工」受章。令和5年黄綬褒章受章。大学在籍中、米国に留学。大学卒業後、日本バーテンダースクールに入学し、コースを修了。銀座のバーで働きはじめる。2000年〜2008年、「スタア・バー・ギンザ」ヘッドバーテンダー。2008年7月、「BAR HIGH FIVE」開店。日本バーテンダー協会では、史上最年少理事として2011年度まで国際局を担当し、選手を海外の国際大会に引率。「世界のベストバー50」に選出されるなど、日本を代表するオーセンティックバーとして世界的にその名を知られている。
BAR HIGH FIVE(バー ハイ ファイブ)
店名は、日本で言うところの「ハイ・タッチ」を意味。連夜、海外からのお客で賑わい、店内には各国の言葉が飛び交う。日本のバーテンディングの技術が冴えるスタンダードカクテルはもとより、キーワードや好みを伝えてクリエイティブな一杯を提供してもらうことも可能。洗練された雰囲気の中、上質なカクテルが愉しめる。
■住所:東京都中央区銀座5-4-15 Efflore Ginza5 Bldg B1F
インタビュー・文 沼 由美子
ライター、編集者。醸造酒、蒸留酒を共に愛しており、バー巡りがライフワーク。著書に『オンナひとり、ときどきふたり飲み』(交通新聞社)。取材・執筆に『EST! カクテルブック』『読本 本格焼酎。』『江戸呑み 江戸の“つまみ”と晩酌のお楽しみ』、編集に『神林先生の浅草案内(未完)』(ともにプレジデント社)などがある。
前編記事「2.81回の精緻な蒸溜が生み出す『モートラック』の圧倒的な力強さと深い味わい」はこちらからご覧いただけます。

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