2018.10.9 Tue
BAR TIMES 編集企画 ジントニックスタイル Vol.4モルティで豊かなコクを感じる
ジンと一線を画したメロウなジントニック
石村正樹 × ボルス ジュネヴァジントニックスタイル
ジントニックは店の顔。シンプルなレシピなだけに使用する素材、つくり方などバーテンダーの思いが反映され、その店の味わいの傾向が分かるという。バーテンダーはその1杯にこだわり、悩み、自分の味わいを模索する。ジントニックは理想とする形を永遠に追い求められるカクテルのひとつなのではないだろうか。トップバーテンダーたちががつくるジントニック、そのスタイルを紹介する。
ジントニックスタイル TOP
プロフィール
石村正樹(いしむら・まさき)
「20代前半の自分が気軽に入れるバーがほしい」との思いから開業を決意。26歳で地元である世田谷・経堂にBar Private Podをオープン。独学でバーテンディングを勉強し、2011年にミクソロジーの概念に触れ、自身のスタイルもミクソロジストへと変化。それに伴いミクソロジーを主としたBar Mixology Podを翌年下北沢にオープンさせる。活躍の場を大都市新宿に求め、2016年新宿御苑に移転しBar Private Pod 新宿御苑として営業。「ボルス・アラウンド・ザ・ワールド2017」の地区予選を勝ち抜き、アジア・パシフィック地区の代表選手となり世界大会へ進出。見事世界2位の成績を残す。
ジンの原型であるジュネヴァ。
ボタニカルの代わりとなるのはハーバルの香味。
1800年代に主流だったオランダ生まれのクラシックスピリッツ、ジュネヴァ。ジンの原型とも言われている。ジュネヴァのレシピは、ライ麦やトウモロコシ、小麦等の穀物を蒸溜したモルトワインを主成分とし、ジュニパーベリー蒸溜液を含んでいなければならない。ジュニパーベリーを使用するがゆえに“ジュネヴァジン”と呼ばれることもあるが、正しくはジンではない。古い文献に登場するラム、ブランデー、ウイスキー等と並ぶ“ジュネヴァ”というひとつの独立したカテゴリーなのだ。そのジュネヴァを使ったジントニックは一般的なそれとはどう違うのか。「ボルス・アラウンド・ザ・ワールド2017」日本代表であるバー プライベートポット(東京・新宿御苑)の石村正樹氏に聞いた。
「ジュネヴァを飲んだことのない方が普通のジントニックと思ってこれを飲むと、おそらくびっくりすると思います(笑)。想像とまったく違いますから。ジュネヴァは穀物の香りをとても大事にしているので、ジュニパーベリーやコリアンダーといったボタニカルの香味をあえて表に出していません。ジュネヴァを飲み慣れている方であれば、シンプルなトニックウォーター割りでもおいしいと感じていただけるかもしれませんが、そうでない場合やはりボタニカルの代わりになる何かが必要なんです。そこで私が選んだのは、ハーバルな香りが特徴のガリアーノ。ガリアーノはトニックウォーターとの親和性も高いですし、アルコール度数もジュネヴァ
とほぼ同様の42%あります。ジュネヴァの持つボディ感や腰を崩すことなく、それでいてトニックとうまく繋いでくれる、いい役割を果たしてくれるんです」。
締めの一杯にふさわしいメロウなジントニック。
ジュネヴァの特徴を生かしつつ、飲みやすい一杯に仕上げる。そこにはジュネヴァの味わいに惚れ込んだ石村氏ならではのこだわりがあった。
「氷の入ったグラスにジュネヴァを35ml、ガリアーノを10ml加え60回以上ステアします。氷も材料のひとつと考え、加水してジュネヴァの香りを開かせます。イメージはマティーニをつくる感覚ですね。もうひとつこだわっているのは酸味です。普通のジンって味がシャープなので、ライムのようなシャープな酸味が合う。でもジュネヴァはメロウな味わいなのでライムよりもオレンジのやわらかい酸味の方が合うんです。オレンジジュースは遠心分離機で清澄して、ジントニックらしい透明感を出すように工夫しています。トニックやガリアーノの甘味もあるので仕上げはタンサンでソーダアップします。それでもジュネヴァならではのモルティな味わい、豊かなコクはしっかりと楽しめます。飲みごたえのある一杯なので最初の一杯というよりも締めの一杯にふさわしいジントニックですね」。
古くて新しいカクテルがつくれるスピリッツ。
この一杯でジュネヴァの魅力を拡大したい。
石村氏は、「ボルス・アラウンド・ザ・ワールド2017」の日本代表として、5月にオランダで行われた世界大会に出場。世界2位の見事な成績をおさめた。大会を通じ、石村氏自身もジュネヴァに対する思いがさらに深まったという。
「実は今大会に挑戦するまで、あまりジュネヴァについて深くは知らなかったんです。どんなスピリッツなのか自分なりに勉強し、蒸溜所へも行き、海外の選手はどうこのお酒を使いこなしているのか、知れば知るほど惹かれていきました。『カクテルの創始者』と呼ばれるジェリー・トーマスが著した伝説のカクテルブック『Bar-Tenders Guide』(1862年)では、実に4分の1のカクテルにジュネヴァが使用されていたというのも興味を惹かれたひとつです。そういった古い文献にあったカクテルも、現代ではほとんど知られていないものが多いんです。それって逆に新しいですよね。そういう意味でジュネヴァは、“古くて新しいカクテルがつくれるスピリッツ”なんです。それに日本ではまだ認知度が低いという点も大きなメリットのひとつです。ジュネヴァの魅力を広げていくために、もっといろいろなカクテルを楽しんでいただくために、このジントニックがひとつの入り口になればと思っています」。
1820年にルーカス・ボルスが考案したオリジナルレシピ。このレシピでつくられたジュネヴァは、カクテル黄金時代を迎えた19世紀のアメリカで一大ブームとなり、「オリジナルコリンズ」をはじめとする多くのクラシックカクテルに使用された。しかし、1920年の禁酒法とそれに続く第二次世界大戦の影響により、ジュネヴァの輸出が禁止されると、いつしかジュネヴァはオランダのローカルスピリッツとなってしまう。時を経て21世紀、世界中のバーテンダーから往年のクラシックカクテルを再現するために、オリジナルのジュネヴァを求める声が高まり、その要望に応えるように再び世に送り出されたのが、この「ボルス ジュネヴァ」なのだ。
ジントニック RECIPE
◎ボルス ジュネヴァ:35ml ◎ガリアーノ:10ml ◎オレンジジュース:10ml
◎ウィルキンソン トニック:90ml ◎ウィルキンソン タンサン:15ml
取材撮影/ BAR TIMES 取材協力 / アサヒビール株式会社