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2018.09.14 Fri

バーテンダー 開 幾夫×ニッカ チーフブレンダー 佐久間正が語らうカフェスピリッツの魅力「山椒がピリっと効いたジンだから、
シャープなリッキーが似合うんです」

BAR TIMES 編集部


世界でも稀少なカフェ式連続式蒸溜機。「カフェスチル」とも呼ばれるこの蒸溜機から生まれる蒸溜液は、原料由来の香りや味わいがしっかりと残る。その味わいのある蒸溜液からつくり出される二つのスピリッツが、カフェジンとカフェウオッカだ。他に類を見ない味わい豊かなカフェスピリッツを使い、スタンダードカクテルをつくるのが銀座の老舗バーテンダー開 幾夫だ。そして、それを味わうのがニッカウヰスキー チーフブレンダーの佐久間 正。一杯のスタンダードカクテルから広がるカフェスピリッツの魅力について、プロの使い手とプロのつくり手が語り合う。(撮影場所:銀座・ルパン/東京・銀座)



「和風のジンなんだから、合わせる素材も和。
甘くないリッキースタイルがいんです」(開)

 開  いらっしゃいませ。こちらのお席へどうぞ。
佐久間 雰囲気があって素敵なお店ですね。こちらのお店はとても歴史があるとうかがっています。
 開  ありがとうございます。昭和3年のオープンなので、今年でちょうど90周年になります。
佐久間 それはすごい。これは太宰治の写真ですか。
 開  はい。ここは多くの文壇や画家、写真家が常連とする店でした。太宰もその一人で、佐久間さんがお座りになっている席は彼の指定席だったんです。今ではこの店一番の人気席で、だいたい皆さん太宰と同じ恰好をして写真を撮るんですよ。佐久間さんもいかがですか(笑)。
佐久間 それはまた今度にします(笑)。
 開  今日は佐久間さんに、カフェジンを使ったジンリッキーをぜひ召し上がっていただきたいと思っています。すだちをきゅっと搾ってね。カフェジンは山椒が効いていますでしょ、だからライムを使った普通のリッキーじゃ合わない気がするんですよ。和風のジンですから合わせる素材も和がいいんじゃないかって。そうしたら、スーパーですだちを見つけましてね。大きさも丁度いいし、値段も何とか許せる(笑)。何よりも緑が爽やかでいいんですよ。
佐久間 リッキーにしたところがまたいいですね。ぜひお願いします。
 開  ジントニックもいいんですけどね、日本のトニックウォーターは甘味の強いものが多いですから、僕が求めるスッキリとした味わいにはならないんですよ。それに、カフェジンはピリっと山椒が効いたジンなので、シャープというか涼しさを出した方がいいと思ってリッキースタイルでご提供しています。合わせる素材は一つかふたつ。このジンの持つ味わいと香りの良さを引き立たせるには、極力シンプルにすることですね。さあ、どうぞ召し上がってください。

開 幾夫(ひらき いくお)
学生時代にアルバイトでバーテンダーの道へ進んで以来、45年のキャリアを持つベテランバーテンダー。昭和3年創業の老舗、銀座・ルパンのカウンターに立ち続けて19年、古くからの常連客も、初めてのお客も日々あたたかく迎える。


壁に飾られた太宰治のポートレート。


佐久間 うん、甘くなくてスッキリしていますね。思った通りおいしいです。
 開  すだちを半分だけにして酸味を抑えようか迷ったんですが、いかがですか。
佐久間 私は酸っぱい方が好みなのでこのくらいが丁度いいです。普段でも柑橘を入れる時はついぎゅうぎゅう搾っちゃうんです(笑)。日本の柑橘にもいろいろありますが、すだちはいいですね。特に暑い夏には。
 開  そうですね。カフェジンは山椒の香りが特徴的ですけど、柑橘の香りをもう少し引き出す意味もあってすだちを使っています。すだちは香りも酸味も主張しすぎないですから、カフェジンの邪魔をしないんですよ。それにうちでは昔から使っている小振りの矢来グラスなので、サイズ的にもすだちは丁度いいんです。
佐久間 確かに。このアンティークなグラスもまた素敵ですね。このジンリッキーはよくおすすめされるんですか。
 開  そうですね。例えば2杯目に何を飲もうか迷われているお客様には「ちょっと面白いジンがあるんですよ」という具合にご提案します。どんな味わいなのかご説明するとお客様も興味をもって素直に受け入れてくださるんですよ。ジンはどれも同じと思っているお客様も多いので、カフェジンみたいに特徴があるとこちらもご提案しやすいですよね。
佐久間 一人ひとりにご紹介するのも大変ですね。
 開  お客様との会話はすごく大事なんです。その方の味の好みを引き出すには会話しかありませんから。もちろん店が混んでくるとなかなか会話ができない時もあります。そんな時は、このカフェジン専用のメニューをそっとお渡しするんです(笑)。
佐久間 おお、これはすごいですね。メニューだけじゃなく、カフェスチルの説明まで載っていてよくできています。
 開  私の代わりにしっかりと説明してくれるので、助かっていますよ(笑)。
カフェジン専用のメニューが用意されている。佐久間 正(さくま ただし)
1982年ニッカウヰスキー株式会社に入社。入社後、北海道工場に配属。以降、欧州事務所長(ロンドン)、本社生産部原料グループリーダー、栃木工場長等を歴任。2012年4月からブレンダー室室長、兼チーフブレンダーを務める。


「合わせる素材はシンプルにひとつか二つ。そうじゃないとカフェジンの良さが生きてこない」と開さん。


「足すのではなく、組み合わせる。ジンブレンドも
ウイスキーと通じるものがあります」(佐久間)

佐久間 銀座という場所柄、海外のお客様も多いですか。
 開  そうですね。特に欧米のお客様が多いですね。先日もハンガリーからいらしたご夫婦にカフェジンをご紹介したんです。そうしたら「知ってる。家にある」って。他にも、アメリカからいらした女性のお客様が、どこかのバーで写したカフェモルトの写真を私に見せて、これを買いたいんだって。海外でもニッカの商品は人気なんですね。
佐久間 ありがたいことです。私も海外のイベントで来場者にカフェシリーズをすすめると、皆さん気に入っていただけますね。カフェシリーズは独自性のある商品として打ち出していますから、海外でも珍しいタイプなんです。
 開  確かに。カフェには独自性がありますね。蒸溜という点では現代の蒸溜機の方が性能は高いんでしょうけど、古い機械だからこその良さが出ていますよね。
佐久間 元々ブレンデッドウイスキーをつくるために、カフェスチルをスコットランドから輸入してグレーンウイスキーをつくり始めたという背景がありますから、我々のブレンデッドウイスキーにカフェは欠かせません。そのカフェ蒸溜液を樽貯蔵せず何か別のものに生かすことはできないかと考えたのが、カフェジン、カフェウオッカなんです。
 開  樽貯蔵しなくても蒸溜液によって味わいは違うわけですよね。

佐久間 おっしゃる通り。カフェ蒸溜液の原料には、麦芽とトウモロコシがありますが、麦芽由来のものはモルトの香味が強く出ます。ジンのようにボタニカルの香りを引き出すには、モルトの香味は必要ないんです。ですから香味が柔らかなトウモロコシの蒸溜液にボタニカルを浸漬させることで、香りを素直に感じることができるんです。もちろんトウモロコシの蒸溜液にも香味は様々あるので、一番ライトなタイプを選んでいます。
 開  なるほど。でも、ウイスキーのブレンダーがジンやウオッカもブレンドするってあまり聞かないですけど、どんな違いがあるのですか。
佐久間 ウイスキーのブレンドというのは1+1が0.5になることも、3になることもあります。クセがあってちょっと使いづらいなっていう原酒でも、他の原酒と混ぜれば出来上がりがよくなるというものなんです。ジンも同じで、単に足すのではなく組み合わせる。そういう部分はウイスキーブレンドと通じていると思います。ただ、ウイスキーは何千という原酒から選べますが、ジンの場合は11種類のボタニカルとカフェ蒸溜液の組み合わせですから、選択できる数という意味では違いますし、難しい部分もありますね。でも、ボタニカルという選択肢がないウオッカも結構苦労があるんです。
 開  では今度は、そのカフェウオッカを使った特別な一杯をおつくりしましょう。
佐久間 それは楽しみです。
(後編へ続く)※編集の都合上、本文はすべて敬称略としています。


   

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