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2019.02.8 Fri

バーテンダー 岸 久×ニッカ チーフブレンダー 佐久間正が語らうカフェスピリッツの魅力「じわーっという味わい。
このアフターはカフェにしかない」

BAR TIMES 編集部


世界でも稀少なカフェ式連続式蒸溜機。「カフェスチル」とも呼ばれるこの蒸溜機から生まれる蒸溜液は、原料由来の香りや味わいがしっかりと残る。その味わいのある蒸溜液からつくり出される二つのスピリッツが、カフェジンとカフェウオッカだ。他に類を見ない味わい豊かなカフェスピリッツを使い、スタンダードカクテルをつくるのは銀座の名バーテンダー岸 久。そして、それを味わうのがニッカウヰスキー チーフブレンダーの佐久間正。一杯のカクテルから広がるカフェスピリッツの魅力について、プロの使い手とプロのつくり手が語り合う。(撮影場所:スタア・バー・ギンザ/東京・銀座)



「アプリコットみたいな強い材料を合わせても
カフェウオッカはちゃんと生きるんです」(岸)

 岸  先ほど『酒はいい方になびく』という言葉を使いましたけど、カフェウオッカでもそれが実によく分かるんです。これは『ツァリーヌ』というカクテルで、ウオッカにアプリコットブランデーとドライベルモット、それに少量のアンゴスチュラビターズを入れてつくります。
佐久間 きれいな色ですね。うん、おいしい。アプリコットの香りがふわっときますね。
 岸  そのアプリコットなんですよ。こういったウオッカでこのカクテルをつくるのは、ちょっと勇気がいるというか・・・。
佐久間 と言いますと。
 岸  カフェウオッカってとっても味わいのあるおいしいウオッカなんですよ。普通の感覚からするとせっかくおいしいスピリッツなんだからシンプルにつくってその特徴を生かそうと思うじゃないですか。でもそこにアプリコットブランデーを入れちゃう。何が言いたいかっていうと、アプリコットを入れたってカフェウオッカの味わいが生きるということをお伝えしたかったんです。

佐久間 なるほど。人によっては、何でそんなもったいないことをするんだって、そう思われてしまう可能性があるということですね。
 岸  もっとシンプルにウオッカマティーニでもウオッカギムレットでもよかったんですけど、あえてカフェジンもウオッカも強めの副材料を合わせたカクテルを佐久間さんに出してみようと思ったんです。
佐久間 そこまで考えてくださって、ありがとうございます。このカクテルは、色々な味わいが重なっているように感じますね。
 岸  そうなんです。最初にアプリコットの香りがふわっと来て、あれ、ウオッカはどこに行っちゃったんだろうって思いますけど、その周りを包んでいるところにカフェのアルコール感が十分に残っているんです。しかも飲み終わった後、じわーっという味わいが出てくるんですよ。先ほどのビーズニーズもそうですけど、このアフターテイストはカフェにしかないんです。


岸 久(きし ひさし)
スタア・バーのマスターバーテンダー。銀座の名門老舗バーで修業を積み、1996年にIBA 世界カクテルコンクールで優勝。2000年にスタア・バーを開店。2004年に東京都知事より東京マイスターに認定され、2008年に「現代の名工」をバーテンダーとして初めて受章するほか、2014年に黄綬褒章を受章。現在は一般財団法人 カクテル文化振興会理事長や日本ジン協会代表など多方面で活躍。

「ただシンプルにつくるだけじゃダメ。
色々使ってこそこの良さが分かるんです」(岸)

 岸  カフェジンもカフェウオッカも、バーで使われる一般的なベーススピリッツとは価格帯が違いますけど、このお酒を使うのであればシンプルにつくるだけじゃダメだと思うんです。1杯あたりプラス200円〜300円高めに設定したとしても、もっといろんなカクテルに使わないとこれの良さが分からないですよ。
佐久間 確かに、こうしたちょっと複雑なカクテルにしていただくとカフェジン、カフェウオッカの特徴がよく分かりますね。
 岸  カフェウオッカの場合、これはこれで完成したひとつのスピリッツなんですけど、例えばトウガラシを漬け込んで、ブラッディメアリーをつくったとしたら、他とは絶対に違う味わいになるわけですよ。その場合、普通のトマトとフルーツトマトを合わせて丁寧に漉して、少し水を加えてサラッとさせてみる。
佐久間 聞いているだけで飲みたくなります(笑)。
 岸  同じブラッディメアリーでもやり方は様々ですが、結局何をしてもカフェウオッカの質になびくんです。受容性が高いので、ある意味使いやすいですよね。

カフェウオッカをベースにしたスタンダードカクテル「ツァリーヌ」。


佐久間 正(さくま ただし)
1982年ニッカウヰスキー株式会社に入社。入社後、北海道工場に配属。以降、欧州事務所長(ロンドン)、本社生産部原料グループリーダー、栃木工場長等を歴任。2012年4月からブレンダー室室長、兼チーフブレンダーを務める。

「昔のロンドンドライジンは、カフェ蒸溜液で
つくられていたと言われているんです」(佐久間)

 岸  ここ最近、改めて勉強しようと、ジンについて海外の著者が書いた書籍や資料を取り寄せて色々調べているんですが、そこに連続式蒸溜機の記述も載っていました。
佐久間 カフェスチルは連続式蒸溜機の元祖ですからね。
 岸  今では稀少な存在ですが、ロンドンドライジンが主流の時代、ジンはカフェスチルでつくっていたようですね。
佐久間 そのようです。それまでは単式蒸溜器しかなかったんですが、イーニアス・カフェという人物が1830年頃にカフェスチルを発明しました。アルコールを効率よく抽出するのが目的で、そこに目を付けたのがジンの蒸溜業者だったようです。その蒸溜液でつくったのがロンドンドライジンだと言われています。
 岸  当時はウイスキーに使われていなかったんですか。
佐久間 ええ。発明から20年くらいした後、グレーンウイスキーづくりにも使われるようになったそうです。
 岸  その頃から、原料由来の旨味みたいな味わいの特徴があったんですかね。
佐久間 どうなんでしょう。ただ、カフェスチルの構造は非常に単純で、極端に言えば単式蒸溜器を何十個も重ねたようなものですから、どうしても取りきれないんですよ、原料由来の成分が。現代の最新式な連続式蒸溜機は、色々と手を加えていわゆるクリアなアルコールをつくるんです。そう考えると、当時のカフェスチルも原料の味わいは残っていたと想像できますね。

「カフェ蒸溜液で少量のビターズをつくる。
もしできるとしたら、それは面白いですね」(岸)

 岸  ところで、カフェジン、カフェウオッカに関して、今後の展開は何かお考えですか。
佐久間 そうですねえ、ジンは他のボタニカルを使うという手は可能性としてあるかもしれないですね。ウオッカはバリエーションを広げることはなかなか難しい。原料の穀物を例えば米に変えるといったことはできると思いますが。
 岸  確か御社では昔、ビターズもつくっていたと記憶しています。これは冗談ですけど、社内ベンチャーみたいなものを立ち上げて、カフェ蒸溜液で少量のビターズをつくるっていうのも面白いですね。1,000本限定みたいな(笑)。
佐久間 なかなか難しいでしょうけど、やってみたいですね。結構売れるかもしれない(笑)。今日は岸さんに色々なお話が聞けて良かったです。カフェスピリッツの製造にこれまで以上に自信を深めることができました。本当にありがとうございました。
 岸  こちらこそ、どうもありがとうございました。


※編集の都合上、本文はすべて敬称略としています。




   

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