2020.10.13 Tue
『NARITA ITTETSU to the BAR』完全改訂版発売記念AUGUSTA〈大阪〉
Office Ittetsu & BAR TIMES本ページでは、『NARITA ITTETSU to the BAR』に収録されている作品から、毎回1点をご紹介します。第二回は、AUGUSTA〈大阪〉です。
AUGUSTA 〈大阪〉1993年
店主の品野清光さんとの付き合いは長く、90年代前半に知り合った。店は、93年に著した『一徹の酒場だより』以来、たびたび切り絵にした。現在は、「オーガスタ」とともに、隣でもう1軒店(「オーガスタ・ターロギー」)を構え、品野マスターはそちらでカウンターに立つ。内装材のすべてにウイスキーの樽材を使った店内は居心地がよく、一徹は「僕もここにいればさらに熟成するかな」とジョークを飛ばした。(神戸新聞総合出版センター「NARITA ITTETSU to the BAR」より転載)
4年前にニューヨークに行ったとき、友人に連れられてグリニッジビレッジの場末にあるしがないバーに入ったことがある。たしか「ギャラクシーズ」という店名だった。
ドアをノックした。扉に設けられた小窓から、ヒゲに埋もれた鋭い目が覗く。身元を確かめて招じ入れると、男は急いでドアを閉めてロックした。客たちの胡散臭げな視線が気味悪い。
その店は数年前、何やらヤバい事件があって無くなったが、禁酒法時代に栄えたスピーク・イージー(もぐり酒場)の雰囲気はこんなだったろうかと、ぞくぞくしながらビールを飲んだのを覚えている。
「オーガスタ」の扉に穿たれた菱形の覗き窓を見ていて、そんなことを想い出した。
目の前では、マスターの品野清光さんがミント・ジュレップをつくっている。
グラスの中でミントの葉をつぶし、クラッシュドアイスとバーボンウイスキーを注いでステアしたもの。アメリカ南部生まれの真夏にふさわしいカクテルだ。ひと口すすると、ミントの爽やかな香りが口に広がる。
オーガスタ ー 八月。小窓から漏れる外の光は、まだ勢いを失っていない。(あまから手帖社「一徹の酒場だより」より抜粋)
月刊「清流」より@上田佑勢
成田 一徹 (なりた いってつ)
1949年神戸生まれ。サラリーマン生活のかたわら切り絵に目覚め、88年に上京。切り絵作家として独立した。BARの空間をモチーフにしたモノクロームの切り絵をライフワークとしつつ、新聞、雑誌、書籍を中心に、街の風景や市井に暮らす人々、職人の仕事や生き様など多彩なテーマで作品を発表した。エッセイストとしても、軽妙で味わい深い文書にファンも多く、各地で個展、グループ展を多数開催した。講談社フェーマススクールズ・インストラクターも長くつとめた。2012年10月、脳出血で急逝。
著書に『to the Bar 日本のBAR 74選』 (朝日新聞社)『カウンターの中から』(クリエテ関西)『東京シルエット』(創森社)『The Cigger Story-葉巻をめぐる偉人伝-』 (集英社)『成田一徹の切り絵入門』 (誠文堂新光社)『あの店に会いに行く』(中央公論社)『神戸の残り香』 『新・神戸の残り香』(神戸新聞総合出版センター)『NARITA ITTETSU to the BAR』(神戸新聞総合出版センター)など多数。