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バーをこよなく愛すバーファンのための WEB マガジン

1999.09.26 Sun

「成田 一徹 to the BAR 」in BAR TIMES 第十一回
ABE〈東京〉

Office Ittetsu & BAR TIMES

バーを愛した切り絵作家の故・成田一徹さんの著作権を管理されている「Office Ittetsu」と荒川英二氏(バーUK)のご協力のもと、成田さんが遺された作品の一部を「成田 一徹 to the BAR 」 in BAR TIMES としてご紹介させていただけることになりました。成田さんが切り描いたバーという世界の魅力に触れてください。


第十一回 ABE〈東京〉1993年

湯島天神下、迷路のように路地の入り組む酒場街。名バーを巡った後、地下の小さな一軒に寄っていた一徹。マスターの阿部勝康さんとは『酒場の絵本』の頃からの付き合い。年齢が近く、職人気質の二人は話も合ったという。口数の多い方ではない一徹だが、この店では本名の成田徹として、プライベートな会話を楽しんでいた。「いつか、神戸で飲みましょう」。2012年、夏。いつもの、デュワーズのハイボールを味わった一徹は、主と神戸でのバー巡りを約束し、店をあとにした。
(神戸新聞総合出版センター「NARITA ITTETSU to the BAR」より転載)


 「昔は、もっといい町だったんですがね」。ここで生まれ育って五十七年。主の阿部勝康さんは、ちょっと残念そうに言った。
 湯島天神下。お蔦・主税の「婦系図」で有名な湯島神社の東側は、ラーメン屋からクラブまで、ありとあらゆる飲食店が新旧とり混ぜてぎっちりとひしめく一大盛り場。しかしかつての色町の残り香はいずこへ。今は風俗店の客引きがやたら目立つ。先ほども三人の外国人女性に行く手を阻まれた。なんという喧しさ。そう嘆いて見せたところだ。
 それでも何軒かの名バーを擁するのは、この町の懐の深さだろう。その中の一軒、「AB..E」は、迷路のような路地の地下にある小ぢんまりした店である。店の造りもサービスもさりげないが、いつもいい飲み手が集まり、いい感じでくつろいでいる。しかし、ありがちな常連客だけの変にアットホームな雰囲気はなく、みなケジメを守りつつ、淡々と気楽に飲んでいる。これは”湯島の人”阿部さんの力だ。長身をリズミカルに動かす独特のシェークは、人柄のようにソフトである。
 東京の我が住みかとは酔いざましに歩いてちょうどよい距離にある。その気楽さもあって、時に迷路に入り込む。
(朝日新聞社「TO THE BAR 日本のBAR 74選」より抜粋)



月刊「清流」より@上田佑勢

成田 一徹 (なりた いってつ)


1949年神戸生まれ。サラリーマン生活のかたわら切り絵に目覚め、88年に上京。切り絵作家として独立した。BARの空間をモチーフにしたモノクロームの切り絵をライフワークとしつつ、新聞、雑誌、書籍を中心に、街の風景や市井に暮らす人々、職人の仕事や生き様など多彩なテーマで作品を発表した。エッセイストとしても、軽妙で味わい深い文書にファンも多く、各地で個展、グループ展を多数開催した。講談社フェーマススクールズ・インストラクターも長くつとめた。2012年10月、脳出血で急逝。

著書に『to the Bar 日本のBAR 74選』 (朝日新聞社)『カウンターの中から』(クリエテ関西)『東京シルエット』(創森社)『The Cigger Story-葉巻をめぐる偉人伝-』 (集英社)『成田一徹の切り絵入門』 (誠文堂新光社)『あの店に会いに行く』(中央公論社)『神戸の残り香』 『新・神戸の残り香』(神戸新聞総合出版センター)『NARITA ITTETSU to the BAR』(神戸新聞総合出版センター)など多数。


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