2019.12.11 Wed
特集企画 カクテル・ルネッサンス第五回 「エスプレッソマティーニ」
禁酒法時代にまで遡るアメリカのカクテル黄金期。その時代に生まれ、長く忘れ去られていたカクテルに、現代の素材と技術で新しい息吹を吹き込む「カクテル・ルネッサンス」。[The World’s Best-Selling Classic Cocktails 2019]でベスト50に選ばれたクラシックカクテルの中から、毎回一つのカクテルに注目。ベーシックなレシピやつくり方だけでなく、BAR TIMES が今もっともおすすめしたい進化したクラシックカクテルをご紹介します。第五回目は[エスプレッソマティーニ]。今、コーヒー業界ではサードウェーブと呼ばれるコーヒーブームが巻き起こっており、エスプレッソマティーニの人気も世界的に急上昇しています。今回は、日本におけるコーヒーカクテルの第一人者、大渕修一さん(スターバックス リザーブ ロースタリー東京)にコーヒーとエスプレッソマティーニの魅力についてうかがいました。
Drinks International
The World’s Best-Selling Classic Cocktails 2019
ベーススピリッツはケテル ワンが世界1位!
Drinks International社が実施した『世界で人気のクラシックカクテルベスト50』の調査によると、エスプレッソマティーニは2018年に9位、2019年には7位にランクアップし、世界的に注目されているカクテルであることが分かります。また、同社のアニュアル・バーレポート2018では、エスプレッソマティーニのベースに使用するウオッカとしてケテル ワンが1位を獲得。その他にも、トップトレンディング ウオッカ、ベストセリングウオッカにも選ばれるなど、ケテル ワンは世界のバーテンダーから高く指示されるウオッカなのです。
世界的なコーヒーカクテルブームですが、その要因はどんなところにあると思いますか。
「コーヒーカクテルの中でも、エスプレッソマティーニは特に人気で、もはや空前の大ブームと言ってもいいかもしれません。日本ではまだ完全上陸とまでは言い切れませんが、世界の波に押されてそのうち当たり前のように飲まれる日も近いと思います。人気の要因を考えてみると、多くのバーテンダーがお茶やハーブ、スパイスなど様々な素材に注目する中、高品質なコーヒーとの出会いは、カクテルに反映することはある意味必然なのだと感じます。ブームとは直接関係ないかもしれませんが、コーヒーのクオリティも年々上がっていて、バラエティに富んでいることも確かです。」
コーヒーカクテルのベースとして人気の高いケテル ワンの特徴や魅力はどのような点ですか。
「ケテル ワンの特徴は、クリアで新鮮な香りと、スムースで絹のような口当たりを感じさせるバランスの良いその仕上がり、そして長くその余韻が続くところこです。これがカクテルの副材料の味わいの余韻を長くすることに繋がります。」
エスプレッソマティーニをつくる際、合わせやすいウオッカの条件とは何ですか。
「一般的なエスプレッソマティーニのレシピでは、コーヒーとほぼ同量のウオッカを合わせます。ですからウオッカは非常に重要な素材で、ケテル ワンの余韻の長さやシルキーなテクスチャ、クリアさというものが高品質なコーヒーを使った際によく馴染むんです。例えば、雑味のあるウオッカだったらコーヒーの良さが損なわれてしまうし、逆に個性のないものだとコーヒーが引き立たない。そういった点を考慮すると、ケテル ワンが持つ小麦由来の長い余韻がコーヒーの香りや味わいを牽引してくれる、特にエスプレッソマティーニにした際、その部分をよく感じます。」
手間をかけず本格的な味わいを出す方法はありますか。
「エスプレッソマシンは気圧をかけてグッと抽出するので、その液体は爆発的なフレーバーを発揮します。ですが、マシンや豆を挽くグラインダーは非常に高価で、しかも日ごとに状態が変化するコーヒー豆は、やはりバリスタでないと調整がとても難しいのです。バーではなかなか困難でしょうね。しかし、それらの懸念をすべて解消できるのがコールドブリュー、つまり水出しです。コーヒー豆を挽いて水に浸けておくだけなので特別な技術は必要ありません。12〜15時間ゆっくりと抽出することで、ほぼ雑味もなくコーヒーのキレイな部分だけを取り出すことができ、数日であれば日持ちもします。まさに良いことづくしです(笑)。もちろんマシンのような濃い液体は抽出できませんが、コーヒーと水の比率や焙煎の度合いなどによって、濃さを調整することはできます。設備投資なしに、安定的なおいしさで普及性の高いコーヒーが抽出できるコールドブリューはおすすめです。」
バリスタとバーテンダーとでは
つくるコーヒーカクテルに違いはありますか。
「バリスタの場合、やはりコーヒーにフォーカスしているので、お酒を多く使うことでコーヒー本来の味わいが損なわれるのでないかといった懸念があります。それに、おいしいコーヒーは酸が決め手と言われるくらいなので、酸の部分も非常に重要視しています。バーテンダーからするとこれ以上酸味を効かせるのはどうか、と思うほどです(笑)。コーヒーのプロ、カクテルのプロ、それぞれの立場によって同じコーヒーカクテルでも違いが出てくるのは面白いですね。」
どのような特徴やこだわりがありますか。
「今回はスペシャルティコーヒーを使用しました。スペシャルティコーヒーとは、香りに特徴がある、生産地域や農園が特定できるなど非常に細かな条件をクリアしたコーヒー豆のことを指し、世界で流通しているコーヒー豆の中でもたった5%しかそれに当たりません。その中でも、昨今注目されているのが『ゲイシャ』という品種。元々エチオピアで発見された品種で、数年前にパナマの品評会でかなり話題になり、ちょっとあり得ない金額で取引されている高級品種です。フローラルでシトラスの酸やティーを思わせる爽やかさ、その中にハーブのニュアンスもあって、コーヒーらしからぬフレーバーを持っています。でも、さすがに今回は使っていません。カクテルの素材として使うには、高くて勿体ないですから(笑)。ただ、ゲイシャを使わないゲイシャのエスプレッソマティーニができないかなって思ったんです。それで、様々な副材料を使いゲイシャから感じるフレーバーを再現してみました。」
どのような工夫が凝らされているのですか。
「まずひとつがアイスワイン。ゲベルツトラミネール種のブドウを凍らせて糖度を高め、それを抽出してワインにしたもので、自然な甘味と酸があります。もう一つは、カスカラティーを使いシロップをつくりました。コーヒーのカテゴリーはフルーツにあたり、豆は種、その種を覆う果肉がカスカラです。そのカスカラを乾燥させてお茶にしたのがカスカラティーで、レーズンのような味わいが特徴です。元々同じコーヒーなので、相性は間違いありません。スタンダードなエスプレッソマティーニは、コーヒーリキュールを使いますが、コーヒーにこだわればこだわるほど、あえてコーヒーリキュールは必要ないと感じます。例えば、フレッシュの桃のカクテルを作るときに、ピーチリキュールを入れるでしょうか?コーヒーにも同じことが言えると思うんです。その他、ベルガモットオイルと乳酸、そして最後にタンカレーナンバーテンにジャスミティーをインフュージョンしたジンを合わせました。ゲイシャはジャスミンやベルガモットにフレーバーがよく似ていると言われます。僕が記憶しているゲイシャの味わいが、これでうまく再現できていると思います。」
〜ゲイシャを使わないゲイシャエスプレッソマティーニ〜
・ケテル ワン/40ml
・スペシャルティコーヒー(コールドブリュー)/50ml
・アイスワイン/10ml
・カスカラティーシロップ/10ml
・ベルガモットオイル/1drop
・乳酸/1drop
・コーヒー豆/2、3粒
・ジャスミンティーをインフュージョンしたタンカレーナンバーテン/適量[つくり方]
タンカレーナンバーテン以外の材料をシェークしグラスに注ぐ。最後にジャスミンティーをインフュージョンしたタンカレーナンバーテンを吹き付ける。
〜スタンダードエスプレッソマティーニ〜
・ケテル ワン/45ml
・コールドブリュー/45ml
・コーヒーリキュール/10ml
・シュガーシロップ/5ml
・コーヒー豆/2、3粒[つくり方]
すべての材料をシェークしグラスに注ぐ。