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バーをこよなく愛すバーファンのための WEB マガジン

2020.03.3 Tue

魚住聖治氏、サムエル・ソリア氏(SudoWork)に聞く「シンガニ」の美味しさを
一人でも多くの人に届けたい

日本で初めて『シンガニ』の輸入に取り組む SudoWork合同会社の魚住聖治氏とサムエル・ソリア氏に、『シンガニ』について、まずはどのようなお酒なのか、なぜ輸入するに至ったのかなど、これまでの経緯とこれからの展望を熱く語っていただきました。(撮影場所:BAR TIMES STORE/東京銀座)


IT技術者の派遣会社がお酒を輸入!?

お酒は好きでも、輸入は全くの専門外

 

まずはお二人の出会いを教えてください。

魚 住 「当社は、IT技術者の派遣やコンサルタント事業を行っています。ソリアは元々別の会社でITエンジニアとして働いていましたが、何かで一緒に仕事をする機会があり、お互い馬が合うなって感じて(笑)。それで私が代表を務めるSudoWork合同会社に来ることになったんです。ソリアのおかげで今はなぜかお酒の輸入も行っておりますが、本業はIT事業です(笑)。」

ソリア 「僕の故郷は南米のボリビアです。あまりピンと来ないかもしれませんが、アンデス山脈やウユニ塩湖が有名で、誰でも一度は耳にしたこともあるでしょう。でも、ボリビアのお酒は日本でまったく知られていない。美味しいお酒がたくさんあるのに、日本に来てそれがすごく残念だったんです。」


魚住聖治氏(SudoWork合同会社)


魚 住 「それなら一度飲んでみようということになって、ボリビアでおすすめのお酒をソリアがいくつか取り寄せ、他の社員を含め数人で試飲会をしました。」

ソリア 「取り寄せたお酒の中には、僕が一押しするボリビアワインもありました。すごく美味しいんですよ。たぶん、みんな気に入るだろうって思ったんですけど……。」

魚 住 「いや、確かに美味しかったけど、南米産ではすでにリーズナブルで美味しいチリワインが定着していますからね。ソリアには申し訳ないけど目新しさという点では強い興味は持ちませんでした(笑)。で、最後に飲んだのが『シンガニ』です。これを口にした瞬間、かなりの衝撃でした。なんだこれ、うまい!って。鼻から抜けるマスカットの甘くて華やかな香りにもう一瞬で惚れ込んでしまいました。」

ただボリビアのお酒を飲んでみようという好奇心が、輸入するまでになるとは意外でしたね。

魚 住 「あの時感じた衝撃が、“日本でもっとシンガニを知って欲しい”という想いに変わり、私を突き動かしたんです。お酒は大好きなのでもっぱら飲むことが専門でしたが、輸入となると全くの素人。それから輸入酒類卸売業免許を取得し、ボリビアのシンガニメーカーとの契約まで何とか漕ぎ着けました。」


サムエル・ソリア氏(SudoWork合同会社)

アンデス山脈の英国鉄道技術者が生んだ

ボリビアの国民的カクテル〈チュフライ〉。

 

『シンガニ』はどのようなお酒ですか。

ソリア 「マスカット・オブ・アレキサンドリアを主原料としたワインを蒸留してつくるお酒です。【ボリビアで自生する新鮮なブドウを蒸留した酒で、蒸留・瓶詰め共に産地で行なわれたもの】という細かい規定があり、ボリビアでつくられたものしか『シンガニ』と名乗れません。国内のどの飲食店でも取り扱っていますし、スーパーでも販売されていますから、ボリビアでもっとも親しまれているポピュラーなお酒と言っていいでしょう。」

魚 住 「大手メーカーは3社あり、銘柄や格付けによって特徴も様々ですが、原料由来の華やかで甘い香りは共通した特徴です。フレッシュなマスカットを感じ、口当たりはなめらかで、厚みのある豊かな味わいを楽しめます。日本人の舌にも合うので受け入れやすいと思います。」

ソリア 「『シンガニ』の歴史は意外と古くて、15世紀にスペインがボリビアを統治していた時代につくられたようです。当時のスペイン人たちは、ワインをつくるために標高4,000mを超えるポトシ南部の渓谷でブドウ栽培を始めました。しかし、強烈な寒さの中で良質なワインをつくることができず、ワインを蒸溜させたのがはじまりと言われています。」

お酒にはその国の歴史や風土が表れるものですね。

ソリア 「実は、飲み方にもボリビアの歴史や風土が色濃く反映されているんです。例えば、『シンガニ』を炭酸飲料で割った〈チュフライ〉というポピュラーな飲み方。諸説ありますが、その起源は19世紀初頭、アンデス山脈に線路を引くためにやって来たイギリスの鉄道技術者たちの間で、ジンの代用品として『シンガニ』をつかったソーダ割りが流行したからと言われています。」

魚 住 「元々は“シューフライ”と発音されていたようです。語源は定かではありませんが、シューっと空を飛ぶように楽しい気分で酔えるとか何とかって聞いたことがあります(笑)。」


「チュフライ」シンガニをジンジャエール(またはセブンアップやスプライト)で割ったカクテル。


「テコンテ」熱い紅茶にシンガニを注ぎ、シナモン、ライムを添えたホットカクテル。


ソリア 「ボリビア人は“シューフライ”と発音しにくいので、〈チュフライ〉になったみたいですね。その他にも、熱い紅茶と『シンガニ』でつくる〈テコンテ〉は、しばしば氷点下になるアンデスの寒冷地で、体を芯から温めるために考えられた古くから伝わる飲み方だそうです。」

お二人はどのように『シンガニ』を飲まれるのですか。

魚 住 「先日、青森のリンゴジュース生産者さんがつくった100%のアップルジュースで割ってみました。これがすごく良く合うんです。マスカットとリンゴですから相性は元々良いんでしょうけど、抜群に美味しかったんです。それと、一番驚いたのはミルク割り。まさかホワイトスピリッツにミルクが合うとは思いもよりませんでしたが、『シンガニ』の厚みのある味わいがいいのかもしれません。」

ソリア 「〈テコンテ〉のように紅茶割りは定番ですが、私はコーヒーにも合うと思います。色々な飲み方を試して思ったんですが、『シンガニ』は意外とストライクゾーンが広いというか、何にでも合わせやすいと感じますね。ボリビアにいた頃は、色々な飲み方をしていたわけではないですが、確かにアップルジュース割りやミルク割りも美味しいので、改めて『シンガニ』の楽しみ方を知りました。」

夢は日本中のバーに必ず『シンガニ』があること。
そのために、まずはバーテンダーの皆様に知ってもらいたい。

 

今回、日本で初めて正式輸入される『シンガニ』はどのようなものですか。

魚 住 「記念すべき日本初輸入の『シンガニ』は、ボリビアの老舗メーカー、クールマン&シア社の創業85周年を記念してつくられた【ロス パラレス アニバーサリーリザーブ】です。SWSC2017*でダブルゴールドを受賞しており、世界的な評価も高い銘柄です。オレンジやライムのような活気に満ちた柑橘の香り、白桃の甘い香り、花やハーブのような香りも感じます。シルキーな口当たりで長い余韻を楽しめるプレミアムクラスの『シンガニ』です。」

ソリア 「クールマン&シア社では、年間約60万リットルしか生産されず、そのほとんどが海外へ輸出されます。上質なマスカットを使い、丁寧にベースワインをつくり、約10時間かけて蒸留し、ミドルカットの部分だけを抽出します。その後、最低8ヶ月間熟成をさせ、香りを最大限に引き出させるのです。【ロス パラレス アニバーサリーリザーブ】は、長い歴史で培われた職人たちの技術が結集した『シンガニ』なのです。」

これからどのような展開を考えていますか。

魚 住 「何よりもバーテンダーの皆様に『シンガニ』を知っていただくことが重要だと考えています。なぜかと言うと、『シンガニ』はホワイトスピリッツだからです。もちろん、ストレートやオン・ザ・ロックでも楽しめますが、より多くの方にこの美味しさを知っていただくためには幅広い飲み方の提案が不可欠なんです。〈チュフライ〉や〈テコンテ〉など、ボリビアの定番カクテルも積極的に紹介していきますが、日本の食文化や味覚にマッチしたカクテルの開発がとても重要だと考えています。それにはバーテンダーの方に『シンガニ』を知ってもらい、自由に料理してもらうことを望んでいます。」


写真:ボリビア Kuhlmann&Cia社


SWSC2017*でダブルゴールドを受賞

ソリア 「まずは、一人でも多くの人に『シンガニ』をお届けすることに注力し、次のステップとしてバーテンダーの皆様に『シンガニ』の魅力を引出していただくためのカクテルコンペを開催したいと考えています。そして、幅広い銘柄を取り扱い、ボリビアの蒸留所ツアーもぜひ実現したいです。ボリビアはとても美しいところなので、日本の方もきっと気に入ると思います。」

魚 住 「日本中どのバーに行っても『シンガニ』が置いてある、それが私たちの目標です。今はまだほんの一歩しか踏み出していませんが、夢実現への期待でわくわくしています(笑)。」


魚住 聖治(うおずみ せいじ)
1966年愛媛県松山市生まれ。20年弱、個人事業主として、大手IT企業を渡り歩き、5年前にSudoWork合同会社を設立。現在は、ボリビア、アルゼンチン、ナイジェリア、インド、中国等の外国籍エンジニアを抱え、自身もITエンジニアとして大手IT企業に参画。昨年より、同社所属の外国籍エンジニアと共に、貿易業に参画。プライベートでは、遅くに生まれた1女の父親の顔を持つ。40年以上続けて来たサッカーも来年より新たな挑戦を始める。

ソリア コレア サムエル フィデル(SORIA CORREA SAMUEL FIDEL)
1982年南米北部の美しい国ベネズエラのカラカス市生まれ。
ボリビア人の父とチリ人の母を持ち、3つの国籍を持つボリビア人。ボリビアのコチャバンバ大学を卒業後、日本人女性と結婚。その後、スペインのバルセロナ大学で電子商取引を学び、ボリビアにて起業。30か国以上の国を周り、2018年に日本にて家を買い、永住を決意。現在は、大手IT企業の案件に参画し、日本、インド、スペインを繋ぐ仕事に従事。SudoWork合同会社では、日本、中南米間の貿易業も手掛ける世界を繋ぐビジネスマン。
プライベートでは3男1女の優しい父親の顔を持つ。


※SWSC(サンフランシスコ・ワールド・スピリッツ・コンペティション)
米国最大の世界的な酒類コンペティションです。米国のホテルやレストラン、流通のバイヤー、ジャーナリストなどの審査員による審査を経て、カテゴリーごとに最優秀金賞、金賞、銀賞、銅賞が選出されます。


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