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NEW2025.11.5 Wed

ザ‧バルヴェニー
グローバル ブランドアンバサダー
チャールズ・メトカーフ氏による
マスタークラスが開催

BAR TIMES REPORT

10月8日(水)、ザ‧ストリングス表参道で「ザ・バルヴェニー マスタークラス」が開催された。ザ・バルヴェニーといえば、先代のモルトマスター、ディビッド・C・スチュワート氏がウイスキーのカテゴリにおいて世界で初めてカスクフィニッシュ(後熟)の手法を用いた、個性豊かなウイスキー。今年1月よりブラウンフォーマンジャパンが正規販売代理店としてザ・バルヴェニーの販売を始め、その品質とブランドが誇るクラフツマンシップを伝えるためにスコットランドからブランドアンバサダーのチャールズ・メトカーフ氏が来日した。ザ・バルヴェニーはなぜ特別なのか、そしてほかのシングルモルトウイスキーとは何が違うのだろうか。

創業者の想いを受け継ぐザ・バルヴェニーの歴史

1892年、ウィリアム・グラントの第2蒸溜所として創業。廃城となったバルヴェニーハウスに、ザ・バルヴェニー蒸溜所を設立した。自家製麦と伝統的なフロアモルティングを現在も行っており、専属の銅器職人と樽職人が常駐する数少ない蒸溜所。130年以上にわたって手造りのウイスキーにこだわり続けた、ザ・バルヴェニー蒸溜所の大まかな歴史は次のとおりだ。

【1893年】5月1日、ウイスキー造りを開始
【1929年】伝統的なフロアモルティングへ切り替え
【1962年】ディビッド・C・スチュワート氏が17歳でウィリアム・グラント&サンズ社へ入社
【1971年】ザ・バルヴェニーにとって初めてのシングルモルトウイスキーを発売
【1983年】ディビッド・C・スチュワート氏が2種類の異なる樽で熟成させる、後に「カスクフィニッシュ(後熟)」と呼ばれることになる実験を初めて行い、「ザ・バルヴェニー・クラシック」として発売
【1993年】蒸溜所の設立100周年にあたり、ザ・バルヴェニーを3つのレンジに分けてリローンチ(ファウンダーズリザーブ10年、ダブルウッド12年、シングルバレル15年)

そして2022年、ディビッド氏が蒸溜所での勤続60年を迎え、ケルシー・マッケニー氏が共同モルトマスターに就任。翌年、ディビッド氏は名誉アンバサダーとなった。彼らと共に、昔から変わらない手法でザ・バルヴェニーを造り続けてきたのが「農家」「モルトマン」「銅器職人」「樽職人」「モルトマスター」の5つの職人技である。

スコットランド・スペイサイドで生まれ育ったチャールズ・メトカーフ氏。家の近くにザ・バルヴェニーの蒸溜所があったため、幼少期から身近に感じるブランドで、自然とウイスキーに慣れ親しんだという。「ザ・バルヴェニー ダブルウッド12年を初めて試飲したとき、まさにウイスキーの虜になった瞬間だった」と話す。

クラフツマンシップ ザ・バルヴェニーを造る職人たち、5つの職人技

(1)農家「専属農家による地産大麦」
ザ・バルヴェニーはスコットランド・ハイランド地方において、いまも自社所有の大麦畑で専属農家のワイズマン家が造る地産大麦を使って麦芽を製造している。蒸溜所を見下ろす1,000エーカーの農場に大麦の種をまき、収穫する時期の見極めは世代を超えて受け継がれた直感と熟練の技によるもの。現在3代目となるジェームズ・ワイズマン氏が昔ながらの栽培を守っている。

(2)モルトマン「伝統的なフロアモルティング」
スコットランドにある約150か所の蒸溜所のうち、伝統的なフロアモルティングを行っているのはザ・バルヴェニーを含めて8か所のみ。かなり骨の折れる作業で、大麦を2日間浸麦させた後、攪拌を5日間、乾燥を2日間で計1週間ほどかかる。モルトマンの中でも、ロビー・ゴームリー氏は42年もの経験を持つ“師匠”だという。

(3)銅器職人「独特なポットスチルのメンテナンス」
白鳥の首のような長いネックと、丸みを帯びた「バルヴェニーボール」と呼ばれるネック下部の“こぶ”が蒸気をゆっくりと上昇させ、複雑な風味と甘美で奥深い味わいを生み出している。この独特なポットスチルを1958年から60年以上見守り続けてきたのが、デニス・マクベイン氏。その技術と想いは弟子のジョージ・シンガー氏へと受け継がれている。ちなみに、ザ・バルヴェニーのボトルネックのデザインはバルヴェニーボールからインスピレーションを得たもの。

(4)樽職人「クーパレッジに常駐する、影のヒーロー」
一般的には外注されるが、ザ・バルヴェニーでは樽職人を専属で常駐させている。極めて重要なポジションで見習い期間が最低でも4年は必要なため、トレーニングプログラムを用意しているそうだ。現在、樽職人は10名。50年以上のキャリアがあるイアン・マクドナルド氏は、これまでに25万個を超える樽を生み出してきた。チャールズ氏は「とても大変な仕事で、影のヒーローだと思っている」と話す。

(5)モルトマスター「ディビッド・C・スチュワート氏から、ケルシー・マッケニー氏へ」
40万樽以上の香りを嗅ぎ分けてきたディビッド・C・スチュワート氏は2022年に勤続60年を迎え、2023年に名誉アンバサダーとなった。モルトマスターとしてのバトンを渡したのは、2014年にウィリアム・グラント&サンズ社へ入社したケルシー・マッケニー氏。2016年に熟成樽を管理するチームに加わり、2018年にディビッド氏の見習いとなった。2023年には、醸造酒・蒸留学の修士号とMBAを取得し、ザ・バルヴェニーのモルトマスターとして正式に就任。科学の知識とウイスキー造りへの情熱を持つ、理想的な後継者だ。

ザ・バルヴェニー 4種のテイスティング

今回の試飲アイテムは「ザ・バルヴェニー12年 ダブルウッド」「ザ・バルヴェニー14年 カリビアンカスク」「ザ・バルヴェニー16年 フレンチオーク」「ザ・バルヴェニー21年 ポートウッド」で、ペアリングにお薦めのフードと共にテイスティングが行われた。現在ボトリングされている商品は、すべてケルシー・マッケニー氏が手掛けている。

ザ・バルヴェニー12年 ダブルウッド(40%)/ペアリング:マルコナアーモンド
チャールズ氏が「バルヴェニーらしさ(甘味)が最も表れているかもしれない」という12年は、アメリカンオーク樽で12年以上熟成させた原酒をスパニッシュオークのオロロソシェリー樽に移しておよそ9か月後熟、その後4か月ほどマリッジして造られる。ハニー、レーズン、甘いフルーツ、ナッツの甘味とスパイシーなシナモン。

ザ・バルヴェニー14年 カリビアンカスク(43%)/ペアリング:ローストカシューナッツ
アメリカンオーク樽で14年以上の熟成後、カリビアンラム樽でおよそ4ヶ月の後熟を経て造られる。ラムの樽を購入するのではなく、モルトマスターがカリビアンラムを独自にブレンドしてアメリカンオーク樽に詰めて仕上げたものを用いるのだとか。砂糖を焦がしたような甘味、ココナッツ、バニラ。「ダブルウッド12年から、たった2年で複雑さが増す」とチャールズ氏。

ザ・バルヴェニー16年 フレンチオーク(47%)/ペアリング:キャンディピーカンナッツ
アメリカのブランドアンバサダーを務めていたローン・カズン氏がフランス・シャラント地方へ家族旅行で訪れた際にピノー・デ・シャラントを飲み、後に当時のモルトマスターであったディビッド氏にこの地方のワイン樽を使えないか提案したことが始まり。ザ・バルヴェニーにとって、初めてフレンチオーク樽を探求した逸品だ。アメリカンオーク樽で16年以上熟成させた後、ピノー・デ・シャラントを貯蔵していた樽で約6カ月後熟。グレープフルーツ、ゼラニウム、グレイズドフルーツ、ジンジャー、フローラルな香り。少し加水するのがお薦め。

ザ・バルヴェニー21年 ポートウッド(40%)/ペアリング:チェリージャム&クラッカー
「とても美しいアンバー色で飲みやすく、ひと口で虜になるウイスキー。ディビッドが最も気に入っている」とチャールズ氏が紹介したのがこちら。アメリカンオーク樽で21年以上熟成させた後に6~8か月ほどヴィンテージ・ポートパイプで後熟、4か月のマリッジを行っている。ストロベリー、ラズベリー、マジパン、トロピカルフルーツ。やさしいナッツの香りが続く。

2つの異なるタイプの樽で熟成させる「カスクフィニッシュ(後熟)」で、特徴的な味わいを生み出しているザ・バルヴェニーのコアレンジ。いずれもリッチ、贅沢なほどなめらかで、ザ・バルヴェニー特有の蜂蜜の風味に支えられている。今後、25年、30年ものも登場するかもしれないザ・バルヴェニーから目が離せない。

インタビュー・文 いしかわあさこ
バーとカクテルの専門ライター。ウイスキー専門誌『Whisky World』の編集を経て、フリーランスに。編・著書に『The Art of Advanced Cocktail 最先端カクテルの技術』『Standard Cocktails With a Twist スタンダードカクテルの再構築』(旭屋出版)『重鎮バーテンダーが紡ぐスタンダード・カクテル』『バーへ行こう』『ウイスキー ハイボール大全』『モクテル & ローアルコールカクテル』『ジン カクテル』『ウイスキー カクテル』(スタジオタッククリエイティブ)がある。2019年、ドキュメンタリー映画『YUKIGUNI』にアドバイザーとして参加。落語と飲食店巡りが好き。愛犬の名前は“カリラ”。

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