NEW2024.11.21 Thu
ニッカウヰスキー創業90周年記念トークセッションレポート(後編)原酒の多様性が充実したニッカウヰスキーだからこそ『ザ・ニッカ ナインディケイズ』は生まれた
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2024年、ニッカウヰスキーは創業90周年を迎えた。会社の設立日でもある7月2日には『ザ・ニッカ ナインディケイズ』を数量限定で発売し、ウイスキー愛好家たちの話題をさらった。“ニッカウヰスキーの90年の歩みを、ひとつのウイスキーで表現する”をコンセプトにつくられた『ザ・ニッカ ナインディケイズ』には、1940年代から2020年代までの原酒が、巧みにブレンドされている。
創業90周年を機に、コミュニケーションコンセプトも新たに策定。創業者である竹鶴政孝氏の「できることなら、英国人がウイスキー相手にじっくり生きるを愉しむように、酔うためでなく愉しむために飲んでほしい」というメッセージを“生きるを愉しむウイスキー”という新コンセプトに込めた。新コンセプトを体感できるバーとして、表参道に『THE NIKKA WHISKY TOKYO』を期間限定でオープンした。
去る10月26日、ニッカウヰスキーの過去、現在、未来を紐解き、かつ新コンセプトを体感できるイベントとして『THE NIKKA WHISKY TOKYO』にて、新旧チーフブレンダーによるトークセッションが開催された。『ザ・ニッカ ナインディケイズ』のテイスティングもできるとあって、ウイスキー愛好家の間でプレミアムチケットとなったイベントを、独自取材も交えてレポート。今回は後編をお届けする。
2021年から、ウイスキーの多様性や奥深さ・意外性を「発見する」シリーズとして『NIKKA DISCOVERYシリーズ』が数量限定で発売されてきたが、こうしたニッカウヰスキーの多様な原酒の集大成として、究極のブレンデッドウイスキーとしてリリースされたのが『ザ・ニッカ ナインディケイズ』だ。ブレンドを担当した尾崎氏は、開発秘話を次のように語った。
「マーケターから“ナインディケイズ”を実現できるか?と質問を受けました。幸い、1940年代から2020年代まで幅広い原酒があったので、実現できます、と応えることができました。『ザ・ニッカ』ブランドで出すので、モルト主体のブレンデッドウイスキー、とコンセプトが決まっていきました。
オール・ニッカを感じられるウイスキーにしたかったので、余市、宮城峡だけではなく、ベン・ネヴィスのモルトウイスキーも使いました。ベン・ネヴィス蒸溜所には、弊社の技術者が赴き、様々な試みをしてきた経緯があります。グレーンウイスキーは、西宮工場時代と、宮城峡に移転してからのカフェグレーン・カフェモルト、先ほど話題に出た焼酎蔵でのグレーンも用いています。
骨格は、余市のヘビーピートと宮城峡のシェリー、余市、宮城峡、ベン・ネヴィスの新樽が柱になっています。そこに、焼酎蔵のグレーンで個性を付与し、カフェグレーン、カフェモルトでまとめ上げました。トータルで6つの蒸溜所から150以上の原酒をブレンドしています。
処方検討の方法としては、まずは余市モルト部分の1940年代、50年代、60年代、70年代、80年代、90年代、2000年代、2010年代、2020年代原酒のサブブレンドを検討。次に宮城峡モルト部分と、蒸溜所・タイプごとにサブブレンド処方を決め、その後、余市モルト、宮城峡モルト、ベン・ネヴィスモルト、カフェグレーン、カフェモルト、門司グレーン、さつま司蔵グレーンのサブブレンドをまとめ上げる最終製品処方を検討する、という多段階に及ぶものでした。それをマーケターに提示したところ、「もっと熟成感が欲しい」など要望をもらい、改めて蒸溜所ごとのサブブレンドからやり直しました。各サブブレンドは5~10回の検討を繰り返し、最終処方も10回以上の検討を経て、完成したのです。」
そんな渾身のブレンドにより生まれた『ザ・ニッカ ナインディケイズ』をテイスティング。日本国内では2,000本のみ、海外も2,000本のみの販売という貴重なボトルだ。参加者が一斉にグラスを手に取ると、『THE NIKKA WHISKY TOKYO』の店内に芳醇な香りが広がった。
「ブレンドの際には、古酒感はありつつも古ぼけた印象にならないように意識しました。貯蔵庫の中で感じるウッディさと、湿った土のような香りを感じてもらえるのではないでしょうか」という尾崎氏の解説を聞くと、まるで店内が貯蔵庫になったかのようだ。『ザ・ニッカ ナインディケイズ』を初めて飲むという佐久間氏は、ひとくち飲んで「おいしい」と満面の笑み。
「一番古い原酒は1945年の余市モルト。これが、今、ニッカウヰスキーに現存する最古の原酒です。また、昔は、余市では北海道産のミズナラ材を用いて樽をつくっていたので、ミズナラ樽原酒も使用しています」というエピソードには、ウイスキー通の愛好家たちも驚きと感嘆の表情を見せていた。
「アップルパイやレーズンの要素は、『シングルモルト宮城峡 アロマティックイースト』の熟した果実感のある原酒が効いています」という尾崎氏の言葉に、数滴ずつ加水をしフレーバーの広がりを探る参加者の姿も。
アルコール度数48%でノンチルで仕上げられ、90年の歴史を感じさせる重厚感がたっぷり。濃厚な余韻にうっとりしたり…皆、思い思いに『ザ・ニッカ ナインディケイズ』を愉しんだ。
『ザ・ニッカ ナインディケイズ』の構成原酒は、平均熟成年数が23年くらいだという。長期熟成の原酒を贅沢に使いながら、若い原酒も用いて熟成年数での訴求をしていないのも『ザ・ニッカ ナインディケイズ』の特徴だ。これには、原酒の熟成を見守ってきたブレンダー両氏の想いが込められている。
佐久間氏がチーフブレンダーを務めていた2014年、NHK朝の連続テレビ小説『マッサン』が放映され、ウイスキーの人気が再燃。2015年の9月には、熟成年数の表記のある商品の販売を休止せざるを得なくなった。そんな状況でも、多様な原酒があったことで、熟成年数に頼らないおいしさを生み出していった。初めは、ノンエイジの商品に懐疑的な市場の反応も見られたが、おいしさで愚直に訴求していったのである。原酒の熟成年数という縦軸だけに頼らなくとも、原酒の多様性という横軸が充実しているニッカウヰスキーだからこそ、『ザ・ニッカ ナインディケイズ』を生み出せたのだ。
“生きるを愉しむウイスキー”を体感
最後に、会場となった『THE NIKKA WHISKY TOKYO』オリジナルのカクテルを両氏がテイスティング。佐久間氏は、Bar BenFiddichの鹿山博康氏が考案した『ニッカ カフェグレーン』をベースにしたPERFECT NIKKAを。2016年に鹿山氏がニッカウヰスキーとコラボレーションしてアメリカツアーをした際に生まれたカクテルで、佐久間氏も同行していた縁があるとういう。
尾崎氏はBAR HIGH FIVE考案の『フロム・ザ・バレル』をベースにしたMIDNIGHT TOKYOを。尾崎氏は、ブレンダー室に異動になってから、積極的にバーに行き、ウイスキーベースのカクテルを飲むようになったそうだ。出張から戻ってきたばかりというニューヨークでは、カクテルでウイスキーに親しむ姿に、ウイスキーの新しい可能性を感じたという。来年で40周年を迎える『フロム・ザ・バレル』は、「独自なボトルの形状もあり、海外での人気も高い」と佐久間氏。「40周年になにかできたら良いなあと思っています」という尾崎氏のコメントに、愛好家たちは期待を膨らませていた。
『THE NIKKA WHISKY TOKYO』のバーエリアは、ウイスキーやバー、カクテルへのなじみが薄い方々や若者層向けと、ウイスキーやカクテルに慣れ親しんでいる方に向けた2つのエリアで構成されている。今回、テイスティングをした、国内外4,000本限定の『ザ・ニッカ ナインディケイズ』は、“ナイン”にちなみ、毎月9の付く日に提供される。2024年12月25日までの期間限定の営業だ。
「バーに行くのは敷居が高いと感じている方にも、『THE NIKKA WHISKY TOKYO』でカクテルを飲み、“生きるを愉しむウイスキー”を体感して頂けたら嬉しい」と尾崎氏。日本を代表するトップバーテンダーによって生み出された多様なカクテルを飲むと、ニッカウヰスキーの原酒の多様性も感じられるだろう。
佐久間 正(さくま ただし)
1982年、ニッカウヰスキー株式会社に入社。
入社後、北海道工場に配属以降、欧州事務所長、本社生産部原料グループリーダー、栃木工場長などを歴任。原酒づくりや樽貯蔵、原料調達、スコットランドでの勤務などで見聞を広め、2012年から2020年までチーフブレンダーを務める。 2020年3月に定年退職し、現在は非常勤顧問に就任。
尾崎 裕美(おざき ひろみ)
1988年、ニッカウヰスキー株式会社に入社。 研究所に配属され酒類製造の技術開発に携わる。その後アサヒビール酒類研究所に出向しRTD、焼酎の商品開発を担当。 ニッカウヰスキーに復帰後は栃木工場・仙台工場の品質管理部長、本社原料部長を歴任。2019年ブレンダー室長、2021年チーフブレンダーに就任し現在に至る。
ニッカウヰスキーが掲げている新たなコミュニケーション・コンセプト“生きるを愉しむウイスキー”を体感できるフラッグシップバー。2カ所のバーエリアを中心に、物販エリアも併設し、ウイスキーが持つ豊かな個性や多様な楽しみ方を提案している。『ザ・ニッカ ナインディケイズ』は毎月9日、19日、29日に提供。12月25日までの期間限定営業。
◎東京都港区北青山 3-5-27 AOKI表参道ビル1F
◎月〜金/17:00〜23:30(L.O. 23:00)、土・日・祝は14:00〜
URL:https://www.nikka.com/thenikkawhiskytokyo/
文 馬越 ありさ
慶應義塾大学を卒業後、ラグジュアリーブランドに総合職として入社。『東京カレンダーweb』にてライター・デビュー。エッセイスト&オーナーバーマンの島地勝彦氏に師事し、ウイスキーに魅了される。蒸留所の立ち上げに参画した経験と、ウイスキープロフェッショナルの資格を活かし、業界専門誌などに執筆する他、『Advanced Time Online』(小学館)に連載を持つ。日本で唯一の蒸留酒の品評会・東京ウイスキー&スピリッツコンペティション(TWSC)の審査員も務める。